【林士平の推しマンガ道】語り継がれるべき戦争の記憶をマンガで読む

林士平の推しマンガ道

読む前と後では、目に映る世界の姿が違ってくるはず。"戦争"への想像力を育み、平和な未来を守るため、世界中で読まれてほしい、第2次世界大戦を主題にした3作

『夕凪の街 桜の国【新装版】』こうの史代著

『夕凪の街 桜の国【新装版】』こうの史代著
コアミックス/ 全1巻・726円

1945(昭和20)年、原爆により家族を失い愛しい街を破壊された皆実。その弟、弟の子どもたち。数十年の時を超えて手渡される苦しみから目を逸らさずに描かれた傑作マンガ。

『この世界の片隅に』をアニメでご覧になった方も多いかもしれません。あの作品の原作者であるこうの史代先生が、初めて原爆を描いたのが『夕凪の街 桜の国』です。100ページに満たない短さの中に連作が3編。戦後10年、40年、60年の時を経て、被爆者とその家族、どの世代にも日常があり、後遺症や偏見による苦しみと哀しみを抱えているという現実が描かれます。1話の終わりに置かれた「このお話はまだ終わりません」という重い言葉から、広島でも、日本でも、世界でも、戦争がいまだ終わっていないということを実感させられます。世界中で、広く、長く、読まれ続けてほしい作品です。

『あれよ星屑』山田参助著

『あれよ星屑』山田参助著
KADOKAWA ビームコミックス/全7巻・704円〜

焼け野原になった東京の片隅。闇市で商いをしながら酒に溺れた日々を送る川島は、陸軍時代の部下の黒田と再会。戦争が人に見せるもの、奪うものと同時に、生活の明るさも描く。

戦争の描き方と語り口の真摯さにうならされるマンガといえば、『あれよ星屑』もはずせません。舞台は終戦後の東京と第2次世界大戦末期の中国。二人の復員兵が主人公です。班長と呼ばれる男は、部下を死なせてしまった後悔に押しつぶされそうになっていて、父や兄嫁との関係にも苦しんでいる。熊と呼ばれたりもするかつての部下と焼け野原になった東京で再会するところから物語が始まります。闇市、戦争孤児、歓楽街、非道な軍隊生活とそのトラウマなど、戦争と戦後をどう描くのか、という難題に見事に挑んだ作品。山田参助先生が生み出す、人間造形の線の力に震えながら一気読みしてください!

『戦争は女の顔をしていない』小梅けいと作画 スヴェトラーナ・ アレクシエーヴィチ原作 速水螺旋人監修

『戦争は女の顔をしていない』小梅けいと作画 スヴェトラーナ・ アレクシエーヴィチ原作 速水螺旋人監修
KADOKAWA/ 既刊4巻・各1100円

旧ソ連側だけでも2700万人もの死者を出したといわれる独ソ戦。旧ソ連軍に従軍した500人以上の女性の言葉を集めた証言文学のコミカライズ版。

戦争の記憶を語り継ぎ、残す。ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの主著『戦争は女の顔をしていない』をマンガ化したのが小梅けいと先生です。独ソ戦に従軍した女性にインタビューしたノンフィクションなのですが、こんなにも多くの女性たちが、自ら戦地に赴くこと、国を守ることを望んだという史実に驚き、国家による"教育"のおそろしさについて改めて考えさせられます。個人的には、前線で出産に立ち合い、お礼に贈られたおしろいの匂いを思い出す女性が語る第15話が忘れられません。実体験からしか出てくることのない小さなエピソードや話し言葉が記録され、誠意をもってマンガに翻訳されています。同じ原作者による『チェルノブイリの祈り』の、熊谷雄太先生によるコミカライズもおすすめです。こういった物語を大切にしながら、人類は"戦争を避ける"という努力を続けなければならないと思います。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」の人気作品のほか、新連載『ケントゥリア』『おぼろとまち』『さらしもの』などを担当。遠藤達哉先生とのロンドン出張では「帝国戦争博物館」も訪ねました。

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