『RIOT』雑誌作りの扉を開いた文化系高校生の青春物語【マンガ編集者のおすすめ】

林士平の推しマンガ道

『RIOT』 塚田ゆうた 著

『RIOT』 塚田ゆうた 著

小学館 ビッグコミックス 既刊3巻・770円〜

憧れと想像力があれば夢は形にできる! 雑誌作りの扉を開いた文化系高校生の青春物語

喫茶店で雑誌を読み、じいちゃんにもらった懐中時計を日常使いするシャンハイ。小学4年生の頃に雑誌『POPEYE』の「映画とドーナツ」特集に出合ってからというもの、「小さな星が集まって銀河系を作るみたいな」紙の雑誌という形態を愛し続けている。向かいに座るアイジは、自らデザインしたTシャツを学校でゲリラ販売して先生に呼び出されたりもする平和な問題児。友の雑誌愛を目の当たりにしたある日、「雑誌作ったら?」「俺はいつもお前の話を楽しみにしてるんだ」と提案する。『月刊!スピリッツ』で連載中の『RIOT』。文化系読者の心を震わせている話題作だ。

「日本のどこか、海辺の小さな町の高校生たちがZINEという形態の出版物があるということさえ知らないまま、雑誌を作りたいという初期衝動に身を任せて動き出す。若いときにやりたいことが見つかるのってとても幸せなことですが、それにしてもこれほどピュアに始動するのか!と驚きうれしくなります。同時に、こんなに素晴らしいテーマに自分はなぜ今まで気づかなかったんだ……と悔しくなってしまうくらい、いいマンガです」

『RIOT』 塚田ゆうた 著

Ⓒ塚田ゆうた/小学館

ケーコの撮り下ろし写真を表紙に据えた第2号。完成直前の姿に撮った本人も息をのむ。青のりコロッケで乾杯!

なんでもあるかに見える東京とは違う、スマホはあるけど書店もレコードショップも近くにない田舎町。そこに暮らす高校生ふたりが、憧れと想像力と初期衝動を資本に、読みたい雑誌を自ら作る。

「第1号は6ページものの学校観察記。手書きの文章をスマホで打ち出し、既存の雑誌から写真を切って文字と組み合わせ、学校のコピー機で印刷してホッチキスで留めて完成! デジタルが発達して便利なツールが増えた世の中だからこそ、その瞬間の輝きと独特の手ざわりをたたえたアナログなアイテムへの愛が生まれるんでしょうか。手作業を積み重ねて紙の雑誌を作っていた、自分の入社当時を懐かしく思いながら読みました」

『RIOT』 塚田ゆうた 著

Ⓒ塚田ゆうた/小学館

「シャンハイにしか見えない世界」があると断言するアイジの言葉が、大好きな雑誌作りへの扉を開く!

その後、地元でデザインの仕事をするアントンさんの店に置いてもらうという新しい目標もできた。次なる第2号では雑誌のコラージュではなく「意思のある写真」を誌面に使うべく、同じ高校の写真部に所属するケーコをZINE作りの仲間に引き入れようとする。

「書きたいシャンハイ、デザインに興味があるアイジ、父から譲られたカメラで友人や景色を撮っていたケーコ。三者三様の興味と嗜好がまずあって、各人が楽しんでいる瞬間が掘り下げて描かれます。表現に悩む顔もあれば、うれしさや期待や武者震いが入り交じったような複雑な表情も巧みに描写。そんな3人の想いの連鎖の果てにZINEが誕生するから、マンガの読者も彼らの感動をリアルに受け取ることができるんだと思います」

『RIOT』 塚田ゆうた 著

Ⓒ塚田ゆうた/小学館

かっこいいZINEを目にして憧れつつ、ありきたりじゃつまらない、もっとできる!といくつもの思いが詰まった表情がすごい

単行本1巻のカバーには「21世紀、ぼくらの紙の革命。」という一文が入る。2巻には「コロッケとカメラ、そしてこの町。」。3巻は「小さな、若人たち。」。

「単行本のデザインでもアオリを入れたり、写真をレイアウトしたような絵作りで雑誌を意識しているんですよね。作家だけじゃなく、編集者もデザイナーも楽しみながら『RIOT』という作品を作っているのがひしひしと伝わってきます。読んでいると、ZINEの3号目、4号目にとどまらず、彼らが大人になった将来にまで想像というか妄想が膨らんでしまう。そのうえ紙の雑誌を作りたい!という気持ちまで伝染してしまいました!」

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マンガ編集者林士平

マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などの人気作品、「少年ジャンプ+」の新連載や読切も担当。「経済雑誌Forbesのカルチャープレナー30に選出されました!」

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