GUCCI「Tian」ノートとヴォイニッチ手稿

 SPUR4月号付録GUCCI「Tian」ノートブックは、「Gucci Tian(グッチ ティアン)」のパターンを贅沢に使った、世界でSPURだけのオリジナル。リニューアルを行う4月号に合わせて、昨年の秋から進めてきた企画がやっと形になりました。

 Tianとは天の意。「Gucci Tian」に描かれているのは、花々が咲き乱れ極彩色の鳥や蝶が飛び交う、過密にして多様な植物相。古いタペストリーや中国の装飾など、多種多様な「天」のイメージがGUCCIクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレの頭の中で混じり合って生まれた、どこにも存在しない美しい楽園の姿です。この絵をマジマジと見ていたとき、自分の灰色の脳細胞にぼんやりと思い浮かんできたのが、同じくどこに存在するのか誰も知らない、とあるユートピアを描いた書物……

 それは俗に言う「ヴォイニッチ手稿」。古書収集家ウィルフリド・ヴォイニッチが1912年にイタリアのある邸宅で発見した有名な古文書です。15~16世紀に作成されたと推測される文書ですが、綴られた文字は解読不能で、既知の言語の文法、記述法に当てはまらない部分が多々ある。そして色鮮やかな図版に描かれる植物も、多くは地球上に存在しないものであったりする。意図も出処もまったくわからない。これだけでかなり心をくすぐられますが、図版の描かれ方も独特で、例えば、巨大な黄色い花の茎がパイプに連結され、それが通じる先は謎の緑の液体に浸されたバスタブ。そのバスタブ内には大勢の全裸の女性たちバチャバチャと浸かっている、という様相。植物と人間が共生する姿がどこか異様で、スチームパンク的だったり、マトリックス風だったり、世界観がでたらめ。

 意味不明だからこそ人を惹きつけるヴォイニッチ手稿ですが、これまでも数多くの暗号解読者が読み解こうと挑んできました。しかし現在にいたっても解読の糸口はつかめないままです。自分も解説書を二冊ほど読んでみましたが、この手稿の著者を13世紀英国の哲学者ロジャー・ベーコンとする説、いやいや錬金術師ジョン・ディーが作ったのでは説、なんらかのアウトサイダーアートではないか説、そもそもこの文書自体が詐欺目当ての偽書である説等々、錯綜しすぎて余計にこんがらがってしまいました。

 とはいえ、ヴォイニッチ手稿を眺めていると、文字は誰にも読めないながらも美しく、図版に描かれたバランスのおかしな花や樹々には、妙にノスタルジーをかきたてられます。この、見たことがないなのに既視感を覚えてしまう不思議な感覚が、「Gucci Tian」の魅力と相通ずるところなのかもしれません。

 つれづれなるままにGUCCI「Tian」ノートを開き、ヴォイニッチ文字を書き写してみました。何を書いているんだか自分でもさっぱりわからないけど、「Tian」ノートは某有名おしゃれノートブランドとは違って、万年筆のインキが裏抜けしないことはわかりました。紙のクオリティはしっかりしています。

 ちなみに「ヴォイニッチ手稿」の挿画には明らかに男性とわかる人物は登場せず、描かれるのは女性のみ。しかも全員ぽっちゃり型。いわば、ちょっとしたデブ専です。意外とこんなところに解読のヒントが隠されているんじゃないですかね。

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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