フィリップ・リムと瀬戸内の島々

 フィリップ・リムと直島を訪れたのは4月のこと。ブランド創立10周年のイベントのために来日したフィリップが、たっての希望で訪れたショートトリップに同行し、貴重なプライベートタイムをもらって直島のアート探訪に同行させてもらったのでした。この模様はSPUR8月号の瀬戸内国際芸術祭の特集でレポートしたとおりです。

 フィリップとは直島で、李禹煥美術館、昨年できた直島ホールや護王神社など、いくつかのスポットを巡りました。印象的だったのは、彼が終始穏やかで、にっこりとほほ笑みながら作品を眺めていたこと。アートと接するときのマインドとして素晴らしい。とりだてて急ぐでもなくぶらぶら歩き、島の空気に溶け込んでいるさまは、慌ただしく東京からやってきて時間を気にしながら移動する自分は、見習うべきスタイルだと感じました。
 フィリップ・リムは春夏コレクションに「Stop and Smell the Flowers」という象徴的な言葉を添えていましたが、この瀬戸内への旅は、彼にとって忙しい仕事の合間、ふと立ち止まって愛でた「花」だったに違いありません。

 取材後、同じく瀬戸内にある豊島行きの船に乗ろうとするフィリップに、一冊の本を手渡しました。それは建築家の西沢立衛とアーティスト内藤礼が手がけた豊島美術館の写真集。フィリップ・リムが直島と同じく、豊島でこの美術館を訪れるのを非常に楽しみにしていると事前に聞いていたため、自分自身も大好きなこの本を彼にプレゼントしようと思ったのです。実はこの写真集、美術館自体のミュージアムショップでさえ品切れという状況で、新品を入手するのに少々手こずりましたが。フィリップに渡すときには、「最初に豊島美術館を見るときの感動が薄れないように、写真集を開くのは帰りの船の上にしてほしい」と一言添えました。

 さて、自分は岡山市の出身なので帰省するたびにベネッセのアートサイトを訪れることにしています。その中でベストスポットを選ぶとすれば、絶対に豊島美術館です。そしてぜひおすすめしたい季節は真夏。よく晴れて太陽がギラギラ照りつける日なら最高です。瀬戸内海は地中海性気候に似て8月の降水量が少なく、晴れる確率が高いのでご安心を。船で豊島の家浦港に着いたら、レンタサイクルを借りてください。これに乗っていくつか小高い山を超えて、豊島美術館へ向かうことになります。結構なアップダウンがありますが、電動自転車なので問題ありません。ただし汗はかくので飲み物は忘れずに。山間部のサイクリングを20分ほど続けて最後の峠を超えると、いきなり急な下り坂とともに真っ青な海が眼前に現れます。これ、本当に突然現れます。目に飛び込んでくる夏の瀬戸内海のブルーは鮮烈で、この瞬間がある意味、旅のクライマックスとも言えます。

 あとは一気に坂道を滑り降りると、潮風を受けて体がクールダウンしているうちに豊島美術館に到着します。「速度落せ」の標示のとおり、くれぐれもスピードの出しすぎには注意。あとは豊島美術館でほてった体を心ゆくまで休めてください。あの場所のことは天国だと思っています。

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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