1837年の創業以来、卓越した職人技とユーモアあふれる創造性で世界中の女性たちを魅了してきたエルメス。連載「エルメスを巡る冒険」では、その歴史をたどりながら新たな名品を紹介していく。
1837年の創業以来、卓越した職人技とユーモアあふれる創造性で世界中の女性たちを魅了してきたエルメス。連載「エルメスを巡る冒険」では、その歴史をたどりながら新たな名品を紹介していく。
エルメスの世界を形作る、16のメチエ
エルメスの壮大なストーリーの語り部となるのは、16のメチエ(製品部門)を支える職人たち。メゾンのルーツである馬具をはじめ、レザー製品、ウィメンズとメンズのプレタポルテ、ホームコレクション、2020年にローンチしたビューティ、そしてパスカル・ミュサールが考案し、2010年より始動した余剰素材に新たな価値を付与するpetit h(プティ アッシュ)。
エルメスのアーティスティック・ディレクターであるピエール=アレクシィ・デュマの指揮のもと、毎年発表される年間テーマに基づき、それぞれが独立した部門としてクリエーションに磨きをかけている。一方で、ときには互いにインスピレーションを共有しながらその世界観を発展させてきた。
16のメチエ
- レザー製品&乗馬
- レディスシルク
- メンズシルク
- レディスプレタポルテ
- メンズプレタポルテ
- シューズ
- ベルト
- ハット
- 手袋
- ジュエリー
- ウォッチ
- フレグランス
- ビューティ
- 家具&アート・オブ・リビング
- テーブルウェア
- petit h(プティ アッシュ)
なかでも今回フォーカスするのは、2026-'27年秋冬コレクションに登場した新しいシルエットのバッグ、「クルー・ド・フォルジュ」。メゾンに転機をもたらしたある人物を手がかりに、そのヘリテージとデザインを読み解く。
馬具製作で培った職人技が、新たな形で花開くまで
エルメスのバッグの歴史をさかのぼると、メゾンの運命を大きく変えた一人の人物に行き着く。創業家3代目のエミール・エルメスだ。先代譲りの愚直な職人気質の兄、アドルフ・エルメスとともに育った彼は、幼い頃から好奇心と機知に富み、商才にも長けていたという。
当時は、移動手段が馬車から自動車へ大きく変わろうとしていた。乗馬用のブーツや鞍を運ぶために生まれた最初期のバッグ「オータクロア」は、誕生した20世紀初頭には、乗馬用ブーツと鞍をエレガントに運ぶバッグとして愛用されたもので、現在の「バーキン」のルーツにもあたる。エミールが経営の中核を担うようになった20世紀初頭には、旅行鞄としても人気を博していた。
馬具製作の世界で頂点を極めたエルメスだが、どれほど優れた技術を誇っても、馬具だけでは工房の未来を守ることはできない。エミールは社会の変化を敏感に捉え、培ってきたレザーの技術を生かして、旅行鞄の製造へと事業を広げる決断を下す。
その慧眼を象徴するのが、1923年発表の「サック・プール・ロト」。当時の自動車の丸みを帯びたトランクに収まりやすいよう、フラットな底面となだらかな曲線で構成された、シンプルにして優美なバッグである。さらに、革の買いつけで北米を訪れて目にしたファスナーを、いち早くハンドバッグに採用。新たな移動手段と技術にフィットしたこの革新的なモデルこそ、現在「ボリード」の名で知られる名品の原型だ。
その後もエルメスは、人々の暮らしに寄り添いながら、バッグの領域を切り拓いていく。1930年代には、女性が持ちやすいサイズに洗練された「サック・ア・クロア」が登場。のちにモナコ公妃グレース・ケリーが愛用し、1950年代には「ケリー」の名で知られるように。1967年には、大胆な「H」のクラスプを備えた「コンスタンス」が誕生し、ジャクリーン・ケネディをはじめ、時代を象徴する女性たちを魅了した。
最上級のレザー、比類なきクラフツマンシップ、そして機能から導き出されたエレガンス。磨かれた技を守るだけでなく、暮らしの変化に応じてその可能性を広げてきたからこそ、エルメスのバッグは王侯貴族からハリウッドスターまで、世代を超えて愛されてきた。この歴史は、単なる名品の系譜ではない。馬具づくりで培った職人技を受け継ぎながら、用途と姿を更新してきた、創業家の革新の軌跡なのだ。
静謐な美しさを宿す、新作バッグ「クルー・ド・フォルジュ」
エルメスジャポン
http://www.hermes.com/
03-3569-3300


