9丁目のタウンハウスで、グリニッチビレッジに今も息づくボヘミアンのスピリットを大切に守り続ける仲間がいる。
―― 少なくとも今年の9月までは、その炎を絶やさぬようにと
もしあなたがニューヨーカーなら、グリニッチビレッジの通りを夜中に散歩したことが一度ぐらいはあるかもしれない。窓の中をのぞき込んだり、窓ガラスの向こう側のイカした変人や傑物たち、救いようのないワルたちの物語を空想したりしながら。だがもしイースト・ナインス・ストリートをそんなふうにして歩いた経験があるとしても、ずらりと並んだタウンハウスの真ん中あたりにある地味な建物は素通りしたかもしれない。
1844年に建てられた、ギリシャ時代の建築を再現したような4階建てのその建物は、この広い区画の北側の建物の中で最も目立たない存在だから。かつてはそこも、今よりもっと見栄えのする建物だったのだが。前面には、立派な造りの玄関に向かって上る階段があったはずなのだが、それも今はもうない。1920年頃、一軒家だった建物がアパートに改装された際に、取りはずされてしまったのだ。今は道から3歩階段を下るとシンプルな玄関扉につきあたり、そこから先は薄暗い廊下が続いている。明るい黄色だった壁は、長年の汚れでグレーに変色してしまっている。
だが、そんなうらぶれた表情の東9丁目17番地には、じつは豊かな歴史が隠されている。それは美と商業ビジネス、アートと不動産の闘争の縮図であり、マンハッタンを築き上げ、今日まで発展させてきたクリエイターたちと彼らの支援者たちの格闘の日々だ。ニューヨークという街がガラス張りの洗練されたビル群やヘッジファンドによる覇権に屈した今、17番地はボヘミアンの遺産として残された。この建物は、グリニッチビレッジがロサンゼルスからラオスまで、世界中にその名をとどろかせるクリエイティブの発信地だったことへの追憶として、不安定ながらも今も存在しつづけている。(続きを読む)
SOURCE:「A sense of Place」By T JAPAN New York Times Style Magazine
BY MARY KAYE SCHILLING,PHOTOGRAPHS BY ANTHONY COTSIFAS,TRANSLATED BY MIHO NAGANO JUNE 22, 2017
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