PART.2 【ドリス・ヴァン・ノッテン】アーカイブスに宿る情熱的で誠実なスピリット

スタイリストの吉田佳世さんと飯島朋子さんの2人が歴代のアーカイブスコレクションを組み合わせたスタイルを提案。インドの街を舞台にドリス ヴァン ノッテンを代表する1996-’97年秋冬コレクション「ボリウッド」へオマージュを捧げる

スタイリストの吉田佳世さんと飯島朋子さんの2人が歴代のアーカイブスコレクションを組み合わせたスタイルを提案。インドの街を舞台にドリス ヴァン ノッテンを代表する1996-’97年秋冬コレクション「ボリウッド」へオマージュを捧げる

常識を打ち破るピンク色のボキャブラリー

トレンチコート(2018年春夏)・スカート(2022年春夏)・重ねたスカート(2016年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン
トレンチコート(2018年春夏)・スカート(2022年春夏)・重ねたスカート(2016年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン その他/スタイリスト私物 photography: Rid Burman styling: Kayo Yoshida

ミニマリズムが主流だった90年代に、色と柄を詰め込んだ「ボリウッド」コレクションを発表。時代と逆行するアイデアは、生地や刺しゅうとの出合いをきっかけに訪れるようになった"インドの美"を洋服で表現したかったから。意図的に美のルールをひっくり返したショーは大成功に終わりモード界に新時代を築いた。「コレクションにたびたび登場するボリュームあるロングスカートと、インドを象徴する"ピンク"を取り入れたかった」という吉田佳世さん。トレンチコートをシャツのようにまとい、フレアスカートにイン。幻想的なプリント柄は、春の訪れを祝い誰かれかまわずカラーパウダーをかけあう、伝統的なヒンドゥー教の祭り「ホーリー」から着想したもの。裾に重ねたスカートがシアーな質感を添える。

作り手の感情を映し出す、美しき手仕事と刺しゅう

シャツ(2016年春夏)・下に着たブラウス(2016年春夏)・パンツ(2023‐’24年秋冬)/ドリス ヴァン ノッテン
シャツ(2016年春夏)・下に着たブラウス(2016年春夏)・パンツ(2023‐’24年秋冬)/ドリス ヴァン ノッテン 靴/スタイリスト私物 photography: Mai Kise styling: Tomoko Iijima

1980年代末に初めてインドの刺しゅう職人と仕事をして以来「私の服は刺しゅうとセット」と語っていたドリス。職人の働く環境を整え、仕事が途切れないようその技術をコレクションに取り入れている。刺しゅうを配したオーバーサイズのシャツとブラウスを重ね、メンズライクなパンツを合わせたスタイルは「ドリスらしいロング&リーンなシルエットがインスピレーション源」と飯島朋子さん。個人的に思い出深い2014‐’15年秋冬のランウェイを飾った花のコサージュを、自らハンドメイドした。手仕事を愛するドリスへオマージュを。

ファブリックが語り出す、消えることのない伝言

シャツ・ブラウス(2015年春夏、2020‐’21年秋冬、2023年春夏、2024年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン
シャツ・ブラウス(2015年春夏、2020‐’21年秋冬、2023年春夏、2024年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン ネックレス・バッグ/スタイリスト私物 photography: Mai Kise styling: Kayo Yoshida

「布と色が私の世界を作ってくれる」。ドリスの言葉をなぞるように、シーズンや素材、柄の異なる5枚のシャツのボタンとボタンをつなぎ合わせて一枚のパッチワーク・ドレスのようにまとったファブリックの遊び。このスタイリングはインドの写真集がインスピレーション源だと話す吉田さん。「年代が違っても、どこか統一感があることに驚きます」。一枚一枚に想いが込められたドリスのファブリックは、デザイナーから私たちに贈られたラブレターだ。

クリエーションの原点は、服との真摯な対峙

シャツ(2013年春夏)・ビジュートップス(2018年春夏)・腰に巻いた一枚のシャツ(2020‐’21年秋冬)・パンツ(2018年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン
シャツ(2013年春夏)・ビジュートップス(2018年春夏)・腰に巻いた一枚のシャツ(2020‐’21年秋冬)・パンツ(2018年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン ネックレス/スタイリスト私物 photography: Rid Burman styling: Tomoko Iijima

「ファッションをタイムレスな言葉で表現し続けたい」。ドリスにとって、ショーは半年以上かけて構築した作品の発表の場であり、自身のビジョンを語る唯一の機会と位置づける。そのあとは「皆さんに、自由に着てほしい」と。グリーンのシャツに「ネルシャツという定番アイテムでありながら、ドリスらしいディテールの美学に感銘を受けた」という飯島さん。南インドの男性が日常でまとうマドラスチェックの腰巻きスカート"ルンギ"のように、チェックにチェックを重ねた。シアーなビジューつきトップスをレイヤードすることで質感に奥行きを添える。

真の創造は誰かの心に永遠に息づくもの

プリーツブラウス(2023年春夏)・花柄ブラウス(2020年春夏)・ジャケット(2024年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン
プリーツブラウス(2023年春夏)・花柄ブラウス(2020年春夏)・ジャケット(2024年春夏)/ドリス ヴァン ノッテン photography: Rid Burman styling: Tomoko Iijima

ファブリックで詩を綴り、独自の色彩でランウェイに花を咲かせたドリス。服に込めたファッションの本質、ゆるぎない信念、自由な探求心は永遠に私たちの心に生き続ける。構築的なプリーツをコサージュのように配したシャツに、花柄のシャツを重ねて青の連鎖を描く。"仕立て職人の高度な技術"を注入したマニッシュなテーラードジャケットが、フェミニンとマスキュリンなスタイルを融合する。飯島さんは「ボリウッドの華やぎ、スパンコールと花のきらめき、紳士的なジャケット。インドの多様な要素と光景を空想したスタイル」を完成させた。