洋服の素材選定のみならず、リサイクルできる会場設備を採用するブランドも見られた今季。モードが地球の未来を考え、歩みを進めている。
今季、メゾンの“本気”はショー会場の演出にも表れた
呉佳子 (資生堂ファッションディレクター)
今までランウェイの世界でサステイナビリティといえば、エコファーやオーガニック素材、リサイクル繊維など、決まって洋服素材のあれこれでした。それが今季、にわかに話題の中心に躍り出たのが、ショー会場のエコな演出です。会場装飾に廃棄物を使用したり、ショー後に資材をリサイクルしたり。さらに一歩進めて、グッチは環境負荷のかからないショーのあり方を探り始めました。一方、森の木立が現れたディオールの会場では、木々の根元は運搬用の根巻きがされたまま。ショー後の植樹を静かに訴えています。ひしひしと伝わってきたのは、環境を守るために何よりも行動を!という彼らの“本気”。このような責任と行動を見せるショーは、次回以降もさまざまな展開が期待できそうです。
さて、エコな会場演出の今後という視点で注目なのがマーク・ジェイコブス。いつも同じ会場で装飾は一切なし、広い空間に椅子だけ、というレス・イズ・モアなスタイルを、もう3年も継続中。限られた条件の中で次はどう来る?というのが見所です。お金をかけて華美に盛るよりも、制限のある中での創造力勝負。今季の取り組みはそんな次なるステージへと私たちを導いてくれました。
Profile
呉 佳子 /ご よしこ毎シーズン各国のコレクションを取材し、ファッショントレンドを分析・研究。ウェブサイト「花椿」の「Heart of Fashion」ではインタビュー記事やランウェイ、ファッションに関する記事・コラムを掲載している。
1 企業としてサステイナビリティに取り組む グッチ。ショーを行うことによって排出される温室効果ガスの量を、ミラノに2000本植樹することで相殺する“カーボンニュートラル”を徹底
2 会場に設置された木々は、その後緑化に使われる。QRコードを読み込めば、その木々がどこに植えられる予定かがわかる仕組みに
エココンシャスなセットデザインに注目
3 会場に再生素材OSB合板を使用したミュウミュウ。グラマラスな服とセットデザインの対比が新鮮
4 開発のため取り壊されようとしている公園にてショーを開催。ショーの収益を終了後、すべて寄付した。「シティサファリ」をテーマにしたランウェイを彩った草花やプランターも、訪れた人々が持ち帰れる仕掛けに
5・6 海に浮遊する廃棄物を使ったジュディス・ホプフのアートが会場を彩る。前デザイナー時代の生地を再利用し、アマゾン火災への警鐘としてバケツバッグを提案するなど、各所にメッセージを込めた
ルックで示された、環境にやさしいアティチュード
7・8 難解になりがちなサステイナビリティを軽やかなショーに のせて発信。さまざまなパターンのニットのレイヤードは自由で柔軟な人物像を。フィナーレではオラファー・エリアソンのソーラーランプ 「リトルサン」を掲げ、持続可能なエネルギーへの転換を印象づけた
9・10 地球環境に配慮した企業とのコラボレートなどを継続。“グローバルシチズン”に向けたワードローブには、サステイナブルなコットンやウールクレープ素材を採用したジャンプスーツ、 セットアップなど、都会的で洗練されたルックが揃った
11・12 再生プラスチックを使用したコート、古いテーブルクロスを使用したドレスなど、「アップサイクル」を独自の視点で発信
13・14 「サステイナブル」という観点ではかなり早くからさまざまな取り組みをしてきた先駆者。レディ・トゥ・ウェアの75%以上にエコフレンドリーな素材を使用するなど、こだわりが
15・16 メゾンの代表的な素材ともいえるビニールを、藻類やマッシュルームなどからとれる成分に置き換えた。ジャケットには食用魚ピラルクの副産物としてとれたスキンを使用している