物を大切にしたい気運が高まる今だからこそ、情熱がほとばしるような買い物体験がしたい。そこで、おしゃれ賢者たちがどうしても欲しかったあのアイテムの、魂がふるえるほどのエピソードを教えてもらおう。
ディオールの「サドル」バッグ
女優・新木優子さん
メゾンの美学をデイリーに楽しむ
メゾン初の女性アーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリによって蘇った「ディオール オブリーク」。全面にブランドロゴを配した革新的なデザインは、1967年にマルク・ボアンが考案したもの。最高級のエジプト綿に描かれた、立体感のある総刺しゅうが特徴的。
「ディオール オブリークは、ヴィンテージも集めているほど大ファン。マリア・グラツィアのモダンな新解釈で毎シーズン刷新され、いつも心奪われています。乗馬に着想を得た『サドル』バッグも愛用していますが、新作は今までよりもソフトな作りで、とても使い勝手がいいんです。スタイリングの仕上げにメゾンの美学が詰まったバッグを持つと、装いがアップグレードされるのと同時に、自然と背筋が伸びる感じが好き。これぞトップメゾンの持つパワーだと思います。ストラップをつけ替えたり、イニシャルを入れて、パーソナライズできるのもうれしい」
フォロワー数320万人を誇る新木さんのインスタグラムでは、シンプルできれいめな私服もチェックできる。「ブルーが基調のオブリークは、デニムとの相性も抜群。デニムonデニムなどの上級スタイリングのスパイスとしても大活躍。洋服がカジュアルなときも、バッグやアクセサリーは少しリッチに、が私のおしゃれポリシーです」
新木さんはディオールのショーを現地で見る機会も多い。「マリア・グラツィアへのご挨拶とお礼を兼ねて、毎回バックステージにうかがっています。オートクチュールのときには、お着物を羽織っていらしたのがとても素敵で印象に残っています」。2児の母でもあるマリア・グラツィアのデザインは、自由で開放的でありながらどこかやさしく、女性ならではの繊細さと機能美を兼ね備えている。実際に使う私たちの気持ちに寄り添うバランス感覚こそ、今の時代に求められるものなのかもしれない。「メゾンの歴史をリスペクトしつつ、常に新しい発想で私たちを驚かせてくれるマリア・グラツィア。次のクリエーションも楽しみですし、彼女の仕事に対する姿勢は、自分の励みにもなっています」
新木優子/Yuko Araki2014年に『non-no』の専属モデルとなり、一躍人気に。ドラマや映画など、女優としても活躍中。現在放送中のフジテレビ系ドラマ「モトカレマニア」(毎週木曜夜10時〜)では主演を務めている。
マメの「タートルネックニット」とイシカワの「洋服ブラシ」
作家・朝吹真理子さん
好きすぎて旅先へも一緒に
「友人に『きっと似合うよ!』とすすめられて以来、よく着ているブランドのマメ。デザイナーの黒河内真衣子さんを尊敬しているのと、彼女の服飾の未来に対する真摯な姿勢にも共感しています」と語る朝吹さん。「昔から黒のタートルネックが好きで、できれば一年中着ていたいくらい。ハイゲージのぴったりしたものを愛用していたのですが、今季は久しぶりにオーバーサイズに惹かれました。スタイリストの清水奈緒美さんから、さらにワンサイズ上げたら、とアドバイスいただいたので、大きめのサイズ3をセレクトしてみました。ネイビーと黒、二色買いするほど惚れ込んでいます」
極上のカシミヤが抜群の着心地をかなえるタートルネックニット。長く使えるよう、ディテールまでこだわってデザインされているのが魅力だ。一見するとシンプルなシルエットながら、いざ着てみると絶妙なニュアンスが生まれ、すとんとしたIラインになるところがお気に入りだそう。「ゆるめのストレートパンツに合わせています。マニッシュに着こなすのが気分です」
マメのニットの手入れにも愛用しているというイシカワブラシは、馬の稀少な尾脇毛で作られた世界最高峰の洋服ブラシ。「友人や母など、周りの人たちが絶賛するので、ずっと気になっていて、最近購入。木目がひとつずつ違うので気に入ったものを吟味しました。出かけるときや帰宅したときなど、こまめにブラシするのがいいらしいのですが、力がいるし面倒だなあと思うこともあります(笑)。ただ、お手入れをしていると、どうしてこの服が好きなのかとか、この服を着て出かけたときの思い出なんかが浮かんできて、楽しい。最終的には無心になり、かけ終るとスッキリする。ちなみにブラシをかけるのは下手らしいのですが、自己満足で楽しんでいます」。今では、ハイブランドからユニクロまで、可能な限りなんにでもこのブラシを使っているとか。「着たらブラッシングして、ちょっと陰干し。毛玉ができにくくなったし、クリーニングの頻度が減りました。あまりに気に入ったので、旅行にも持参しています」
朝吹真理子/Mariko Asabuki1984年、東京都生まれ。2009年に「流跡」を発表し、作家デビュー。2010年に同作でドゥマゴ文学賞を、2011年に「きことわ」で芥川賞を受賞。近著に、小説『TIMELESS』(新潮社)、エッセイ『抽斗のなかの海』(中央公論新社)がある。
グッチの「シルヴィ 1969」バッグ
DJ/クリエイティブ・ディレクター/着物スタイリスト マドモアゼル・ユリアさん
装いに私らしいインパクト
日本を代表するファッションアイコンとして、国内外で活躍するマドモアゼル・ユリアさん。ハイモードにも精通する彼女がラブコールを送るブランドのひとつがグッチだ。「クリエイティブ・ディレクターがアレッサンドロ・ミケーレに代わってからの新生グッチは、カラフルで華やかだけど、毒っ気やオタク感もあって、われながら相性がすごくいいんです(笑)。ヴィンテージ調のレトロな雰囲気がありつつも、描かれている女性像はとても現代的。アートや音楽など、さまざまなカルチャーを積極的に取り込んでいる姿勢も時代の気分に合っていて素晴らしいと思います」
そんなアレッサンドロが手がけた新作バッグは、ブランドを象徴する「シルヴィ」の1969年アーカイブスにトリビュートを捧げたデザイン。「なんといっても色と形、素材使いにひと目惚れ。ポップなピンクのプレキシガラスが、40年代にはやった樹脂素材のルーサイトバッグみたいで、絶対に欲しいと思いました。ベビーピンクのドレスに濃いピンクのアクセントとして投入したり、ピンクから赤のグラデーションでまとめた着こなしの名脇役として愛用しています。チェーンとリンクしたゴールド系のアクセサリーを合わせて少しリッチなムードもプラス。大人だからこそ、思いきりスウィートな着こなしを凛としたアティチュードで楽しみたい」
着物スタイリストでもあるユリアさんならではの提案も。「ゴールドチェーンを取りはずして和装にも合わせてみたいんです。先述したヴィンテージのルーサイトバッグもお着物にとてもよく合うので、プレキシガラスもモダンなアクセントとして活躍してくれるはず」
モードをこよなく愛するユリアさんにとって、ファッションは自分を表現するツールのひとつ。「パリコレやブランドのパーティ、DJイベントのような“魅せる”装いが求められるシーンに招かれる機会も多いのですが、そのときそのときのドレスコードに寄り添いながらも自分らしいスタイルを提案するように心がけています。私らしい要素といっても、いろいろありますが、なかなか言葉で表現するのは難しい……。あえて言うなら、“内面を見せること”。もしかするとパーティガールなイメージを持たれているかもしれませんが(笑)、人生とは日々勉強です」ときっぱり。多忙なスケジュールの合間をぬって、週末は大学で歌舞伎や着物などの日本文化を学んでいる。「モードを着こなすには、知性もすごく重要な要素だと思っているので、これからも好奇心を持って学び続けていきたい。私にとって買い物は楽しみであり、義務。令和も魂がふるえるショッピングに邁進します!」
マドモアゼル・ユリア/Mademoiselle Yulia10代からDJとして活動をスタート。現在はデザイナー、コラムニスト、着物スタイリストなど多彩に活躍するファッションアイコン。現在BSテレ東で放送中の「ファッション通信」ではアンバサダーも務める。
バレンシアガの「ドット柄ロングドレス」
スタイリスト・伊藤順子さん
女度MAXなドレスアップをかなえる
パーソナルスタイリストとして、膨大な量のファッションアイテムに触れる伊藤さん。確かな審美眼で選び抜いた今季のベストドレスは、バレンシアガのイブニング。「このドレス、素敵でしょ? ボトムにかけて優美なフレアシルエットになった細身のマキシ丈。フィッティングしてみて驚いたのがバックスタイルの美しさです。単刀直入に言うとお尻がプリッと上がって見える! ボディラインにごまかしがきかないスパルタドレスという点にも、チャレンジ精神をあおられて購入を即決」
ゆるやかに広がってなびくトレーンが、夜の装いにドラマティックなストーリーをもたらしつつ、カジュアルに仕上げたクルーネックやストレッチ素材のドット柄など、バレンシアガらしい遊び心のある上級バランスが魅力。「シルエット勝負のドレスは、さらっと一枚で着こなしたい。輝きのあるジュエリーをプラスしたいですね。年末はニューヨークで過ごすつもりなのですが、お招きいただいているイヤーエンドパーティで披露する予定です」
ハートを撃ち抜かれたきっかけは、デムナ・ヴァザリアがアーティスティック・ディレクターに就任して初めてのショー。「ファーストルックを飾ったアワーグラスジャケットに恋して以来、挑戦的なシルエットや、ボリュームの操り方に心酔しています。実はこのドレスに先駆け、アシンメトリーな袖が特徴的なリトルブラックドレスも購入。こちらはシアーなストッキングにレースアップブーツを合わせて楽しもうと思っています」
仕事柄、ドレスアップには独自のセオリーも。「自分の気分が上がることはもちろん重要ですが、ドレスアップする理由がポイント。装うことは、お会いする方、または伺う場所への敬意です。さらに自分の年齢や体型を加味し、仰々しくなりすぎないように気をつけています。言い方を換えると、悪目立ちしないこと。私は40代ですが、残念なことに圏外になってしまう洋服は年々変化します。客観性を持って検証するように心がけています」
モードなショッピングは仕事でもあり最大の趣味でもあると言いきる伊藤さん。「文明の発達ありがとう!と心から感謝するほどネットショッピングは不可欠なものに。が、それ以上に愛しているのがお店でのお買い物。どれほどマニアックにファッションが好きでも、ショップの方以上にそのブランドに精通することは不可能なのでは。信頼できるスタッフの方のアドバイスと自分の感性のコラボレーションこそ、オフライン・ショッピングの醍醐味。ショッパーを持ってお店を後にする高揚感から、当分逃れられそうにありません……!」
伊藤順子/Junko Itoパーソナルスタイリスト。自他ともに認めるモード好きで、癒やしはレッドカーペットウォッチングとネットショッピング。最近のヒットはSKIMSのSHAPEWEAR♡