この秋にパリで始まった数々のアート展のうち、最もスケールが大きいのが、「近代美術のアイコン シチューキン・コレクション」。この耳馴染みのない名前は、19世紀末〜20世紀初頭のモスクワの事業家&アート・メセナ、セルゲイ・シチューキンのこと。彼は1898年にパリのアート・ディーラーたちと接触し、当時アバンギャルドの先端にあったフランス近代美術を集め始めました。10年後にコレクションが一般公開されるようになったのは、氏によるモスクワのトルベツコイ宮の購入がきっかけです。同時にモスクワに呼び寄せられたマティスが、宮殿を飾るために描いた大きな絵が「ダンス」と「音楽」。しかしさらに10年後、ロシア10月革命、レーニンの台頭とともにシチューキン氏はドイツに亡命、コレクションは国に没収されました。その後、作品の数々はモスクワのプーシキン美術館とサンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館を中心に分散。こうして散らばっていたコレクションが、今回はじめてほぼ再現されたわけです。
印象派、ポスト印象派、モダニスム、キュビスム……。コレクションは、絵画のほかデッサンやスカルプチャーを含む127点。マティス、ピカソをメインにゴーギャン、セザンヌ、モネ、マネ、ドガ、ルノワール、ゴッホ、ロートレック……と、蒼々たる名前が並びます。実は、これら作家の作品は何度も観てるからと、あまり興奮せずに観に行ったのですが、”傑作“の一連を目の当たりにしたら、構図から筆のタッチ、色使い、光の捉え方までのすべてにおいて、その素晴らしさに圧倒されてしまいました。また、アカデミックな意味合いでコレクションを補足するのは、シチューキンのおかげで触れたフランス近代美術の影響を強く受けた、カジミール・マレーヴィチを始めとするロシア・アヴァンギャルドの作家たちの展示。ちょうど2016-17年はフランスーロシア文化交流年なこともあり、展覧会開催中は音楽やダンスなど各分野のイベントも予定されています。12月の2日と3日には、斬新な振り付けとストラヴィンスキーの実験音楽による「春の祭典」も。先日ちょうど映画『ニジンスキー』を観てロシアバレエのアヴァンギャルドぶりに改めて感動したところだったので、気分は100年程前の激動のロシアへ!
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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