パリ・クチュール・ウイーク速報、第三弾。ジュエリー・ハイライト

毎シーズン、パリのクチュール・ファッションウイークの時期には、数多くのジュエラーが新作を発表します。この1月にも、最高峰のハイジュエリーからアーティストによるオブジェの域の一点もの、石の専門家によるファインジュエリーまで、価格もスタイルも異なる様々な“宝”が披露されました。

 中でもジュエリー・デザインの新しい境地を開いたと言えるのが、ソランジュ・アザグリー・パートリッジ(Solange Azagury-Partridge)。彼女の新作は、ポップとカクテルリングをミックスした造語をネーミングとした、ポップテル(Poptail)です。デザイン、ボリューム、色のどれを取ってもダイナミックな“ステイトメント”カクテルリングは、全8点。いずれも、主役はサファイア、ルビー、エメラルド、ダイヤモンド、オパール、スピネルと言ったプレシャス・ストーンで、横から見ると、ラッカーやセラミック・プレーティングの色の層が。めくるめく色とグラフィックなラインはまるで万華鏡の様で、角度によって新しい顔を見せてくれ、何度見ても飽きません。ちなみにプレゼンテーションは、彼女のブティックがあるオテル・コストでのカクテル形式で開かれました。

 一方、色の洪水がより繊細に、エレガントに表現されたのが、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ(Victoire de Castellane)によるディオールのディオール エ ドパール(Dior et d’Opales)。神秘的で詩的だから、と彼女が特に好み、これまでも多用している石、オパールを主役に据えたハイジュエリー・コレクションです。ブラウン、オレンジ、ブラック、ホワイト…いずれのトーンでも虹色の閃光をきらめかせるオパールは、その周りを取り巻く石たちの光を反射して、一層の色と輝きを放ちます。その“取り巻き”とは、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、アメジスト、スペサタイト ガーネット、ツァボライト、トルマリン、そして各色のサファイア。“時を告げるブレスレット”としてのシークレット・ウォッチは、オパールの大きな粒を回転させるとダイヤモンド・セッティングのダイアルが見える仕組みです。お値段は9,400,000円〜95,000,000円。

ところで、貴石自体をインスピレーション源とするジュエリー・デザイナーたちの背後には、石バイヤーの存在があります。フランソワ・ガロードもその一人。彼は、旅先ブラジルで現地産のエメラルドに魅せられたのがきっかけで、コロンビアからビルマまで、色と輝きに秀でた石を求めて世界中を旅するようになりました。特に専門とするのは、赤、オレンジ、ピンクから薄紫、ブルー、グリーン、グレーまで40以上のニュアンスで微妙な輝きが特徴の、スピネル。ヴァンドーム広場のジュエラーたちを顧客に数え、石のバイイングを続ける一方、彼が自身のメゾンとして立ち上げたのがガロード(Garaude)でした。彼の新作は、オリエンタル趣味のバロック・スタイルにインスパイアされた“ビザンチン”です。

 また、石を中心としたいわゆるジュエラーたちとは一線を画し、黒檀、水牛の角、マンモスの象牙、化石化した木など、大地や自然に根ざした素材に親しむのが、画家バルチュスの娘、ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ(Harumi Klossowska de Rola)。ヴァン クリーフ&アーペルが主催するジュエリー・スクール(L’Ecole des Arts Joailleries)は、同校の5周年を記念し、一般にも公開する展覧会として、彼女の新作を新しい展示室に迎えました。Retour de l’Expédition(遠征からの帰還、の意)と名付けられたコレクションは、動物がモチーフ。ランプ、彫刻、つい立てなど6つのオブジェとジュエリーから成り、いずれも1点ものです。上記の素材に自由に組み合わせたのは、ゴールドや黒、茶、グレー、コニャックと言った4トーンのダイヤモンド、そして砂金石、コーネリア、ターコイズなどの天然石。メキシコのマヤ文明や古代エジプトなど地理的にも時代的にも“遠い彼方”をインスピレーションとした作品の数々は、どこかミステリアスで、自然の奥深さを感じさせます。

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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