日本から見ると北欧はひとまとめにしてしまいがちですが、それぞれの国には違った文化、ファッションがあるのです。馴染みのある名前を挙げると、フィンランドではマリメッコ、ムーミン、新進デザイナーのアアルト。スウェーデンではアクネを始めとするクールな若手ブランド一連や、テキスタイルのジョセフ・フランク。デンマークでは家具デザイナーのヤコブセン、シルバーウェアのジョージ ジェンセン、そしてレストラン、ノマ。ところで、ノルウェーは? ノルウェーの森(言わずと知れた、村上春樹の小説)?
ファッションでは、’70〜’80年代に活躍したペル・スプーク(Per Spook)が、この国を代表するデザイナー。彼の作品が国立美術館のパーマネント・コレクションにあると聞いて張り切って見に行ったのですが、現在建設中のミュージアム・コンプレックスが2020年にオープンするまで引越し準備中だそうで、残念!そうこうするうちに、ノルウェーの国民的スターは、「叫び」で知られる画家のエドヴァルド・ムンクだということがわかりました。こんな基礎知識を仕込んだうえで望んだのが、15近くのデザイナーのショーやプレゼンテーションからなる、オスロでのファッションウイーク、Oslo Runwayです。
オスロ・ランウェイ2017FWコレクション初日の、トップバッター、ムンクによる大きなタブローをバックドロップにランェイショーを発表したのは、アンネカリーネ・タービヨルンセン (Anne Karine Thorbjørnsen)です。彼女はロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業した翌年の2013年にブランドをスタート。ロンドンやメルボルンでニュージェネレーション・ブームに加わったものの、故郷のオスロに戻ってコレクションを発表するように。折る、畳む、巻くなど実験的なカットで注目されています。私はこのショーの後、会場となったムンク美術館で、企画展を見学。パーマネント・コレクションより、ムンクがフローベールの小説「ボヴァリー夫人」から受けたインスピレーションを編集した展覧会はストーリー仕立てで、とても見ごたえがありました。
また、スタイリストでもあるクリスティーナ・リアダンによるブランド C.L.E.A.N by Christina Ledangは、オスロヴェロ(Oslovelo)でプレゼンテーションを。中目黒あたりにありそうなこのバイクショップ&カフェは、オスロで昨今最もクールとされている、ヴィンテージショップやカフェが集中するグリーネルロッカ地区にあります。このコレクションは、シャーベット・トーンのフェイクファーとダマスク織のリッチなテキスタイルというコントラストを、レトロモダンなシルエットで展開。この地区のムードを象徴するコレクションとなりました。
このほか私のベストチョイスは、エリザベット・ストレイ・ぺデルセン (Elisabeth Stray Pedersen)。ノルウェーの高原を駆け回る、野生の羊のウールを使ったニットウェアを得意とするブランドです(日本では高島屋にて展開)。そしてボスニア生まれ、ミラノでファッションを学んでドルチェ&ガッバーナに師事したと言うアドミール・バトラック(Admir Batlak)。'14年のローンチ以来、ポップでカラフル、アーティなスタイルを定着させています。そして、ローンチ3年前足らずで180以上の国で販売されるようになり、オスロ中心地にショップも構えるアップカミング・ブランド、トム・ウッド (Tom Wood)。機能的でコンフォタブル、ユニセックスなデザインは、スカンディナヴィアのライフスタイルを象徴すると言われています。彼の作品では、ミニマルで構築的なジュエリーも人気。
そして最終日の目的地は、野外彫刻美術館「エケベルグ公園」(Ekebergparken)。市内中心地からトラムで15分ほど揺られると、オスロから広がるフィヨルドが見渡せる高台に出ます。ここに点在するのが、ロダンなどの巨匠からサラ・ルーカス、ルイーズ・ブルジョワ、トニー・クラッグ、ダミアン・ハースト、マリナ・アブラモヴィッチ、ジェームズ・タレルまでのスカルプチャー。雪に覆われた園内のコースを2時間かけて巡り、ほぼ最終地点に辿り付くと、マリナ・アブラモヴィッチの作品が。この景観スポットにたたずむ長方形の枠は、その名もムンクにちなんだ「叫び」。アーティストのウィットに共感し、額に収まってここでムンクの絵と同じポーズ、表情をして記念撮影をしたところで、オスロへの旅は無事終了したのでした。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/