ダミアン・ハーストの個展が幕開け

4月9日、1か月後に始まるヴェニス・アート・ビエンナーレに先駆けて、ダミアン・ハーストの『Treasures from the Wreck of Unbelievable』展がオープンしました。ナポリでの回顧展以来、約10年ぶりの個展です。また、ヴェニスにあるピノー財団の二つの現代アート美術館、パラッツォ・グラッシ(Palazzo Grassi)とプンタ デッラ ドガーナ(Punta della Dogana)の両方が、同時に一人のアーティストを迎えるのは初めて。そして、4/6から3日間に渡ってのプライベート・プレビューが始まるまで、一切の情報公開は厳禁。展覧会は、作品、規模、動いたお金の全てがすごいスケールだという噂で、前評判が最高潮に達したところでの幕明けとなりました。

10年近くをかけたというこのプロジェクトとは一体?
 
“インド洋、東アフリカ沖の海底で1,2世紀頃に沈没した巨大な船「アスピストス」(当時のギリシア語でアンビリーバブルの意味)が、’08年に発見された。難破船に積まれていたのは、当時のローマ帝国の芸術品蒐集家が太陽の神殿に捧げるために運搬中だった、秘蔵品。それらはブロンズや大理石の像の数々、盾、ヘルメットなどの武装具や、ジュエリー、コインなど、エジプトからアジアまで当時の主要文明からの文化遺産と工芸品だ”

このシナリオを観る者に納得させるべく、ウインドウには朽ち果てた工芸品の幾つかが収められているけれど、「一体どこまでが真実で、どこからが虚構?」という気持ちに。

展覧会を通じ、200点あまりの作品のうち、スカルプチャーでは同じ顔や形が何度か繰り返されています。それらは比較的シンプルで小さめの作品で始まり、次第にサイズも装飾も、クレッシェンド。装飾とは、2000年もの間海底に眠っていたというシナリオに従って像の表面を覆った、サンゴや蛆虫。現実と架空の世界が混沌とする中、上階の展示場にはグーフィーやミッキーマウスが登場し、ビジターたちは、これが途方も無いスケールで仕上げた、「フェイクの古代芸術展」であることにようやく気づくのです。これらの「宝物」が見つかったシーンを想定して創作後に海底に沈めた彼の作品を、ダイバーたちが引き上げる模様を収めたビデオを見ながら。

『Treasures from the Wreck of Unbelievable』は開催中〜12/3

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ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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