真冬のウイーンを彩るのは、動物モチーフとモダニズム

2018年最後のミナコラムは、雪に覆われたウイーンから。この街に足を延ばしたのは、本誌でも紹介している「棺桶に入ったトガリネズミのミイラとその他の宝物」がきっかけです。ウェス・アンダーソンをキュレーターに迎えての美術展(詳細はシュプール2月号Finds参照)は、見た目の派手さはありませんが、よく見ると作品の編集やちょっとした演出に、ウイットが。特にウェスらしさが色濃いのは、動物をテーマとしたウインドウでしょう。

動物と言えばこの旅での大発見は、ニコ・ピロスマニ(Niko Pirosmani)展。ほとんど前知識なく見に行ったのですが、キリンから熊、鹿など動物を描いた油彩画の一連に、感動!フォービズムを思わせる単純かつ正確な輪郭と鮮やかな色彩に加え、強い視線の描き方に惹きつけられました。しかも19世紀末〜20世紀初頭に活動したのこの画家、私の大好きな街トビリシの人だったんです。ちょうど展覧会を見た日の夜はジョージア料理のレストラン、アンサリ(Ansari)を予約していたので、美味しいディナーはまるで、ピロスマニへのオマージュ。

8年前に初めてこの地を訪れた際は、皇族の銀器美術館からクリムトの名画常設展、往年のカフェなど、ハプスブルグ家全盛期からアールヌーヴォーまでのウイーン王道をおさえました。そのうちいくつかはまたリピートしましたが、今回はなぜか動物とナイーブなスタイルに目がいきます。その一つがユニークなチョコレート店、アルトマン&キューネ(Altmann & Kühne)。ウインドウには愛らしいプリントの紙で覆った箪笥や裁縫箱、帽子箱などの形のミニチュアボックスが並び、まるでドールハウス。一つ一つ手作りの小粒チョコレートもほどよい甘さの繊細な味で、“元皇室御用達”のクオリティを誇ります。ところで、それ自体がおもちゃ箱のような小さなこの店は、「ウイーン工房」の中心人物、ヨーゼフ・ホフマンによる内装だとか。

 

ホフマンに加え、オーストリアのデザイン界におけるもう一人のキー・パーソンは、カール・アウべーク(Carl Auböck)。私はよくミュージアム・ショップで見かける彼の手の形のペーパーウェイトが大好きで、アウべーク工房訪問はこの旅のハイライトでした。19世紀末に1代目が始めたブロンズ工房を継いだのは、その息子。真鍮、木、レザー、籐などを素材としたブックエンド、ペーパーナイフ、ランプ、キャンドルスタンド、ワインオープナーなど「カール・アウべーク」ブランドのアイコニックなデザインのほとんどは、この2代目の作品です。いずれも機能的なプロダクツで、同時に遊びがあり、構築的なオブジェ。そのエスプリとクラフツマンシップは代々受け継がれ、今回私たちを迎えてくれたのは、自身も建築家の4代目カール・アウべーク氏です。私はハート型のペーパーウェイトとエッグスタンドを入手しました。日本からの購入は、工房のサイトを通じてメールにてカタログとプライスリストを取り寄せオーダーするか、マッチズファッションのウェブサイトで。

ちなみに前述のチョコレートも、e-shopあり。実際に行く機会を待ちつつ、まずは日本にいながらウイーンを楽しんでみては?

 Text : Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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