2020.04.20

マリーン・セルによるアップサイクル。素材から生産までの舞台裏をビデオで公開

フランスの若手デザイナーの筆頭、マリーン・セル。ブリュッセルの専門学校「ラ・カンブル」でモードを学び、アレクサンダー・マックイーン、メゾン・マルジェラなどでのインターンシップを経て、バレンシアガのデザインチームに参加しつつ初めて発表した自身のコレクションが3年前にLVMH賞を受賞して、一躍注目を集めました。クチュールのカッティング、未来的なスポーツウエア、アヴァンギャルド…と、ハイブリッドな彼女のスタイルを表現する言葉は数あれど、時代性とも相まって彼女を時の人としたのは “アップサイクル”の信念です。それまで再生利用は“リサイクル”と一まとめにされていましたが、既存の素材を用いて新しいものに作り変えることは、正確には “アップサイクル”。マリーンは、この言葉の定着に一役買ったと言えるでしょう。

環境破壊への危惧を掲げるマリーンのこの春夏コレクションは、題してMarée Noire(黒潮、の意味)。そしてこのコレクションでフィーチャーされたアップサイクル・アイテムの、イタリアの工場での生産プロセスをおさめたビデオの一連はRegenerated(再生された、の意)です。素材によってビデオは6つに分かれ、いずれも2分あまり。例えば「クロシェ編み」のビデオでは入荷した1970年代のテーブルクロスを白、生成りなど色別に分け、そのピースからどんなデザインが可能かを探り、特別な機械で裁断、縫製を進めると、トップやドレスが出来上がるのがわかります。

video © Giulia Roman

 

またデビュー当初から自らのコレクションを「フューチャー・ウエア」と呼ぶマリーンが、将来温暖化がエスカレートしても着られることをイメージしたスーツやセットアップの素材に選んだのは、タオル地。「タオル」のビデオでは、デッドストックのコットン・ジャカード・タオルを専用ツールで裁断して機械刺繍を施す工程、そしてタオルの縁飾りを利用してスカートの裾に配したフリンジを、ブラシで梳かす作業が見ものです。

video © Giulia Roman

 

一方「デニム」ではアメリカから届いた1900-2000年のジーンズが詰まったダンボール箱を開けるところから始まり、洗濯の後裁断したパーツには、今ではすっかりおなじみとなった「マリーン・セル」の横向き半月のロゴをレーザープリントするシーンも。

video © Giulia Roman

 

この半月ロゴは、「レザー」編では残り物のレザーに紫外線照射によるUVプリントで施されているのが見れらます。

video © Giulia Roman

 

さらに「フラワー・ドレス」編では1970-80年代のシーツやカーテンなどインテリア用の生地を、「シルク」編では色別に仕分けしたスカーフを使ってのパッチワークが進行中。

video © Giulia Roman

video © Giulia Roman

 
物心ついた頃から、少ない予算でおしゃれをするために安い古着をリフォームしていたと言うマリーン。逆境をクリエイティブ・パワーに置き換えて成功した彼女のアプローチは、まさに今の時代に元気を与えてくれます。
https://marineserre.com/

ローンチされたばかりのアンダーウエア・コレクション「ボーダーライン」も含め、マリン・セルのe-shopでは日本にもデリバリー可。

Text : Minako Norimatsu

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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