ジュエリー・デザイナーのシャルロット・シェネ。思えば彼女のサンプルを見せてもらったのは、かれこれ6年前。まるで彫刻のように構築的、かつなんとも画期的に数通りのつけ方ができて知恵の輪のようでもある、見たことのないタイプのジュエリーに目を見張ったのを覚えています。そして翌年のローンチングから、早や5年。この記念すべき節目に彼女は昨年末、初の旗艦店をオープンしました。ブティックがあるのは、パリのサントノレ地区。内装に彼女が選んだのはオランダの若手建築家、メゾン マルジェラの店舗も手がけているアン・ホルトロップ(Anne Holtrop)です。今回はシャルロット自身がブティックを案内しつつ、このコラボレーションについて語ってくれました。
「アンの仕事について知ったのは、ある建築家エージェントの紹介で。とても興奮してすぐにコンタクトを取り、一緒に仕事することになったの。普段はビルなど規模の大きなプロジェクトを手がけている彼にとって、私のブティックはスペース的には一番小さなもの。でも昨年2月にパリに来た彼とミーティングをしたら、面白いことに私たちの間には大事な共通点があることがわかったの。それは、新しいデザインに取りかかるとき、ドローイングではなく直接素材から入ること」。この時アンが持参したのはプレゼン用の設計図ではなく、なにやら不思議な形のアクリル樹脂の物体だったのです。「一目で気に入ったわ。彼は素材でもって形やラインを探求する、真の建築家ね。店内を美しい家具や照明で“飾る”こともできたけど、それでは物足りない。私が求めていたのは訪れた人が何かを“体験”できる、ちょっと変わった空間。だからアンの、デコレーターではなく建築家としてのアプローチに惹かれたし、自分のもの作りにもあっていると感じたの」。こうして内装工事が始まりましたが、彼がプロジェクトのために現在住んでいるバーレーンからは、コロナ禍の移動制限を押してのパリへの渡航はほぼ不可能でした。「だから進行は、リモートで。たまには意見を違えることもあったけど、妥協せずに徹底的に話し合ったのよ」と、シャルロットは感漑深げに語ります。
こうしてやっと11月末に完成したブティックでは小さなスペースを、出発点となった物体から発展した二つの大きな樹脂のテーブルが陣取り、透明の引き出しにおさまったジュエリーの数々は水の中に浮遊しているかのような錯覚を起こさせます。このアクリル版は天井にも設置され、上を見上げるとまるで雲の中。そしてテーブルの上に点在するのは、これまでも展示会やショップ・コーナーのインスタレーションに使われている、自作のメタルのオブジェです。さらに目新しいのは、手や耳の形を象った繊細なディスプレー台。真鍮にマットのペイントを施し、ブティック用に自身でデザインしたそうです。またこれらと呼応するのはアンが推薦したスウェーデンのアーティスト、ジェニー・ノルドベルグ(Jenny Nordberg)による、表面にシルバーのレイヤーを施した鏡。そこに日本びいきのシャルロットが加えたのが、たまたまインスタグラムで見つけてコンタクトを取りオーダーしたと言う、森幸太郎氏による木のスツールだとか。こうして建築家とのやりとりから調度品のセレクトまで、ブティック構想のプロセスは、今後のシャルロットのクリエイションにも影響を与えそうです。「普段はコンテンポラリーアートのオブジェを手がけている職人たちと樹脂のテーブル制作にあたったのは刺激的だったわ。ジェニーの鏡作りのプロセスも面白い」と、目を輝かせるシャルロット。今後もますます、素材と形の関係を実験的に探って行きたいそうです。Charlotte Chesnais, 10 rue d’Alger 75001 Paris
Text : Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/