ダニエル・ローズベリーがスキャパレリの新しいアーティスティック・ディレクターとなって、早2年。10年以上もトム・ブラウンの右腕として活躍してきたアメリカ人デザイナーがパリのクチュール・メゾンのクリエイションを担うことで、注目を集めてきました。彼のデビューとなった2019年7月のオートクチュールのショー以来アメリカのセレブからの支持も高く、去る1月にはレディ・ガガがジョー・バイデン米大統領就任式でのコンサートの際に、またつい先日はビヨンセがグラミー賞の授賞式でもスキャパレリの特注ドレスを着用しています。そして、これまでプレタ・クチュールと呼ばれていたラインが本格的なプレタポルテとなって2シーズン目のこの春、ダニエルがルックブック撮影の模様を納めたフィルムのリリースと共に提案してくれたのは、少数のジャーナリスト達とのアポ。彼自身が21年秋冬コレクションを披露するプレゼンテーションは、ヴァンドーム広場の本社ブティック・サロンで開かれました。ここは、1930年代にはメゾンの創始者エルザ・スキャパレリがアトリエとサロンを構えた、歴史のある邸宅。エルザが愛し、“ショッキング・ピンク”と命名した色にちなんで、エントランスをはじめ全ての部屋には鮮やかなピンクの花が飾られています。
このコレクションの根底に流れるのは、なんと言ってもメゾンのDNAであるシュルレアリスム。とはいえ表面的にシュールなモチーフを散りばめるのではなく、超現実的と言う本来の意味にかえっての、大胆で自由な発想。顔の描写は鼻、耳、唇になんと歯も加えてのパーツに解体され、至るところに。前シーズンのアポの際、日本の“福笑い”についてお伝えしたのですが、記憶に刻んでくれたのでしょうか。また今回は胸、おへそ、足など体の部位もレザーやメタルで象ってルックに取り入れています。シュール感をさらに促進するのは、部分的なオーバーサイズ、そしてストリートウエアやアンダーウエアの要素です。一方デザインではカジュアルからクチュールまでの“ユニフォーム”を念頭に、Gジャンやテーラードジャケットなどベーシックアイテムが出発点。色はパターン製作に使うトワルを思わせる生成りと、黒またはネイビーにほぼ統一したとか。こうして破天荒なアイディアの数々が、一つのコレクションとしてバランスよくまとまりました。先シーズンからはルックブックの写真も自身で撮るようになり、最近はパリでの住まいも決まったというダニエル。7月のオートクチュールコレクションでは、晴れてランウェイで会えますように!
Text: Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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