ヴァンドーム広場に軒を構える歴史的なジュエラー、ブシュロン。創業当時から数々の革新的なデザインをそのアーカイブズに加えてきた同メゾンは、2018年の160周年を機に新たな局面を迎えました。この年、ブシュロンのクリエイティブ・ディレクターを務めるクレール・ショワンヌは、メゾンのDNAの一つである“自然讃歌”を突き詰めて“束の間の美しさを永遠なものにする”ことに焦点を絞り、最新の素材と技術で表現したのです。記念すべきコレクションの主役は、シャクヤク、紫陽花、アネモネと言った繊細な花の数々。その花びらの一枚一枚に3Dデジタルスキャンを施すことで形、薄さ、質感から葉脈までが細密に再現されました。希少なジュエリーに昇華されたそれらは、名付けてフルール・エターナル(永遠の花)。
また、昨年はContemplation(黙想)をテーマに“空のかけら”を大粒のロッククリスタルに閉じ込めると言う独創的な発想が実現しました。技術開発への協力を惜しまなかったのは、なんとNasa。宇宙からジュエリーへと境を超えて取り入れられたのは、星屑を捉えるために開発されたと言う、99.8%空気から成るエアロゲルです。
そしてこの夏に発表されてジュエリー界に新風を巻き起こしたのが、光のスペクトラムを着想源とした「ホログラフィック」(光と色)。明るさや角度によって色の見え方が異なることで得られる3Dの視覚効果を、ジュエリーに解釈したコレクションです。ジャンルを超えて好奇心に満ちたクレールは、クリス・ウッドやオラファー・エリアソンと言ったアーティストや建築家ルイス・バラガンにによる光と色に関する作品にも刺激されたとか
2年以上の歳月を費やして開発された“極秘プロセス”の基本となったのは、高温で溶かしたメタルの粉末をおよそ10層にも重ねてセラミックやロッククリスタルに吹き付けると言う技術です。”あらゆる色を表現したい”と言うクレールの夢を実現させるために今回の技術開発に協力したのは、サンゴバン。17世紀に王室御用達の鏡製造者として出発し、現在では建築資材や高機能材料のパイオアニアとして知られる、フランスの企業です。9つのグループに渡る25の作品では、石自体の特質から玉虫色に光るオパールに加え、ホログラィック・コーティングを施したロッククリスタルとセラミックを多用。それらを引き立てるのは、ダイヤモンドのパヴェや色鮮やかなトルマリン、サファイア、アクアマリン、エメラルド、ガーネットなど。「ホログラフィック」のジュエリーはいずれも虹やオーロラのごとく七色に輝き、玉虫効果で角度によって異なる色調を呈し、一定間隔で発光を繰り返すストロボのように光線を放つのです。
Text : Minako Norimatsu