ヴァン クリーフ&アーペルは1906年創業、パリ・ヴァンドーム広場に軒を構える、ハイジュエリー メゾンです。その最新ニュースは、パリで始まったばかりの「フローラ」展。メゾンのアーカイブズと現行商品から抜粋したアイコニックなジュエリーと、アーティスト、蜷川実花さんの写真のクロスオーバーとして実現しました。合言葉は外でもない、花。蜷川さんはフィルム、デジタルカメラ、携帯とあらゆる手段で撮った数万点にものぼる作品から、メゾンの花のジュエリーに呼応する写真の数々を選びました。いずれもテクニカラーとでも呼びたい、色が炸裂する花の接写です。
「撮りおろしよりも既存作品から選ぶ方が、このプロジェクトには適切だったんです。ヴァン クリーフ&アーペルとは目指していたものが近かったようで、数点は展示用にクロップしたものの、まるでこのために用意したようなぴったりのカットが幾つもあったんです。とてもハッピーなコラボレーションだったと思います」と、蜷川さんは2年越しの準備期間を回想する。「花を撮り続けて、もう20年あまり。なぜ花を撮るんでしょう?“ものの哀れ”と言うんでしょうか、刻一刻と変わっていくその姿を残したくて、です。消えてしまうことがわかっているからこそ、今の輝きを残したいのかもしれません。でも理屈ではなく、それはどうしても撮らずにいられない、と言う衝動なんです」
一方、蜷川さんの写真を立体的で、しかも躍動するキャンバスに見立てて幻想的な会場を演出したのは、パリ在住の建築家、田根剛さん。彼のインスピレーションは、フランス庭園に典型的な潅木の迷宮、万華鏡、そしてミヒャエル・エンデの児童文学「モモ」の“時間の花”だったとか。「目指したのは、把握できない空間です。どこから来てどこに向かうかわからなくなるような。ジュエリーはとても小さいので、単なる展示として終わるのではなく、例えば手前にあるはずなのに向こうに見えたり、どこに何があるかがよくわからない方が、面白いでしょう。訪れた人の想像力が自由に広がるように」。
さらに光で遊ぼうと田根さんが考案したのは、壁全面をハーフミラーで覆った空間。熱を反射して逃す、50%のミラー・コーティングを施したガラスです。電気がゆっくりと点滅するスクリーンでは、花が浮かび上がっては、フェイドアウト。つまり、訪れる人は、蜷川さんが“消えゆくものを捉えた”写真を目にしたはずなのに、数秒後には本当にそれを見たのかどうかもわからなくなるのです。展覧会は“写実的な花”、“花束”、そして花の様々な捉え方を見せる“ヴィジョン”の3部構成ですが、順序を追って見るよりも、こんな仕掛けに身を任せて会場内で迷うのもいいかもしれません。
「フローラ」展は開催中〜11月14日まで Hôtel d’Évreux, 19 Place Vendôme 75001 Paris
Text: Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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