新世代のパワーに溢れた、ロンドン・ファッションウイーク

やっと久々にIRL(イン・リアル・ライフ)、しかも1月にオミクロン懸念で延期されたメンズを統合して通常よりメゾン数を増やし、217-22日の6日間に渡った、22FWロンドン・ファッションウイーク。今回は英国ファッション協会によるカレンダー外 で発表の大手メゾンもありました。
例えばJW Andersonは、俳優のハリ・ネフをフィーチュアし、ヨーガン・テラーが撮影したキャンペーン写真を搭載した広告車をミラノの街中に走らせることで、最新コレクションを31日に披露。また11日にはバーバリーがロンドンにて、全員スタンディングの “ヒエラルキー・ゼロ” 形式のショーでメンズとウイメンズを同時に発表しました。一方アレクサンダー・マックイーンはニューヨークに場所を移し、15日にショーを開催。こうしてロンドンのラインナップがやっとフルに出揃ったところでLFWを振り返ってみると、ロシア軍によるウクライナ侵略が始まる前に終了したこの6日間は、なんとコロナ禍収束に向けての喜びに溢れていたことでしょう!

まずはロンドン新世代のスター、リチャード・クイン。今回は、ポルカドットや花柄、フェティシズムを体現する素材ラテックス、刺繍や羽細工と言った手仕事などアイコニックな彼の要素を、ドラマチックに再編集。床から壁までピンクに染まった会場、巨大なシャンデリア、中央でカルテットを奏でるオーケストラとも相まって、彼が愛する1950-60年代のパリ・クチュール黄金期は、“ダーク・クチュール”なる世界に昇華されました。また、バラクラバが服と一体化したかのようなシルエットは、その後のパリFWでのトレンドを先取りしていました。

リアル・クローズでの筆頭は、レジーナ・ピョウによる、“サパークラブ”(アメリカで1920年代の禁酒時代に流行った、ダンスホールのあるレストラン)をテーマとしたコレクション。とはいえ特にこの時代のスタイルを着想源としたわけでは無く、その心は混沌とした時代にも人々が集って楽しむこと。彼女が得意とする構築的なパンツスーツは、一つずつ異なるボタンをあしらってアーティに展開、一方フェミニンなアイテムは抽象的なプリントや花柄で、ポップに。

一方ロクサンダの最新コレクションは、彼女らしいグラフィック&カラフルさはそのままに、これまでのドレッシー&フェミニンから、デイリー&スポーティへの変化を見せました。ネオンカラーを差し色にしつつ、キャラメル、オークル、グレージュといった落ち着いたトーンで仕立てたトレンチやジャンプスーツなどは次第にジオメトリックなラインを加えて、舞台セットと呼応。後半はフィラとのコラボによるダウンジャケットやポンチョ、トラックスーツ、ディパックなどいずれもXXL展開していて圧巻でした。

また、ランジェリー風という先シーズンからの大きなトレンドを牽引するのは、注目株のネンシ・ドジョカ。アーヴィング・ペンの萎れた花の写真にインスパイアされたという今回は、奥深いセンシュアリティを感じさせてくれました。複数のパーツの組み合わせやカットアウトを駆使して肌を見せる彼女のスタイルは、パンツスーツやロングドレスなどアイテムの幅を広げ、今後の可能性も示唆。

またスプリヤ・レレもランジェリー路線を極めています。彼女はネンシに比べるとポップでカラフル、そしてストリート&スポーティ。今回は90年代風ミニマルのセクシーな解釈という彼女の持ち味が、よりアピールされました。ネンシとスプリヤ。この二人を比べて見ても、面白いかも。

最後に特筆したいアップ・カミングは、「ケイティ・グランドがスタイリングしてるからおもしろいはず」と友人に勧められて見てみた、中国人のユーハン・ウァン。なるほど、ロマンチックさと野暮ったさのギリギリの線を遊ぶ彼女のスタイルは、ロンドンならでは。1870年に書かれた小説「毛皮を着たヴィーナス」や、女性を首長とする中国雲南省の少数民族、ナシ人が着想源という今回は、フェミニン&エッジーに。

大手不在だったものの、世界のトレンドをもリードする新世代のパワーと、中堅デザイナーたちの新境地が刺激的だった、久々のロンドンでした。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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