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ロレックスとシャネルが支援。パリ・オペラ座のガラ公演

2月21日にパリ・オペラ座 ガルニエ宮で盛大に開かれた、ガラ公演。コロナ禍につき開催が見送られた2020年、そして小規模で開催された2021年を経て、久々にフルで開催の華やかな一夜となりました。また今回は、オーレリー・デュポンの辞任によるダンス部門芸術監督不在のためか、恒例の9月より約半年遅れて開かれたこともあり、特別なプログラム。通常ガラ公演では、向こう数ヶ月間に予定されている演目からクラシックとコンテンポラリーをバランスよくミックスした抜粋が披露されます。しかし新しいダンス部門芸術監督であるジョゼ・マルティネスは、このイベントをパトリック・デュポンにオマージュを捧げる機会としたのです。

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巨大なリボンで飾られた、パリ・オペラ座のメインの階段。Photo: Virgile Guinard/ Courtesy of Opéra National de Paris

デュポンはオペラ座のバレエ学校に学び、1980年にはエトワール・ダンサーとなり、その10年後から5年間は同オペラ座ダンス部門芸術監督を務めましたが、2021年に惜しまれつつ他界。マルティネス監督は、開幕のスピーチでこう語りました。「デュポンはエトワール(星)を超えた、まるで彗星のような存在でした。血気盛んで魅惑的なキャラクターとカリスマ性でもって、高く、高くジャンプしましたね」。この言葉に続いて上映されたのが、デュポンの子供の頃の貴重な映像やリハーサル風景、ステージでの演技やインタビューまでを収めた、ドキュメンタリー・フィルム。彼がバレエ史上有数のダンサー&振付師であっただけでなく、社交的でウィットがあり、太陽に例えられるほど華やかな人柄だったことが分かり、ゲストたちはデュポンの世界へと入っていきます。

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ジョン・ノイマイヤーの振り付けによるヴァーツラフ(Vaslaw)で踊るパトリック・デュポン(1980年) 。Photo: Jacques Moatti/ Courtesy of Opéra National de Paris

パトリック・デュポン

バレエ史に名を遺したダンサー&振付師、パトリック・デュポンのダンス抜粋

オペラ座のガラ公演恒例の幕開けは、ベルリオーズ作曲による「トロイアの人々」のオーケストラ生演奏に合わせての「デフィレ・ドゥ・バレエ」。オペラ座バレエ学校の生徒たちから、プルミエ・ダンサー、エトワール・ダンサーまでが、年齢層順、レベル順に舞台を華麗に行進するショーです。最初に登場した子供たちは誇らしげでなんとも愛らしく、エトワールになると彼らが長く伸びた腕で弧を描き、ひざまづいて深くお辞儀する姿は、なんと優雅なこと! 前回に続き、女性エトワールたちのチュチュとティアラは、シャネル。チュチュのコルセット部分には、ルサージュによる刺しゅうが施されています。そして今回はさらに、パトリック・デュポンがディレクションした1990年の「デフィレ・ドゥ・バレエ」に準じて、エトワールOBたちがステージに招かれました。中には5年前に引退したスター・ダンサー、マリー=アニエス・ジローの姿も。

 

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エトワールOBも招いての、デフィレ・ドゥ・バレエのフィナーレ。Photo: Agathe Poupeney/ Courtesy of Opéra National de Paris

デフィレ・ドゥ・バレエ

デフィレ・ドゥ・バレエの全貌。Video: ParisAndAllThatJazz

この後は、しばし幕間。テタンジェ(Taittenger)のシャンペンと、パリ11区のネオビストロ、「ル・セルヴァン」(Le Servan)の女性シェフ、タチアナ・レーヴァによるアミューズブーシュに舌鼓を打ちながら、パトリック・デュポンに関する話に花が咲きます。20分過ぎてベルが鳴ると、次の演目は「ヴァーツラフ」(Vaslaw、1979年)の抜粋。20世紀前半に世界に名を馳せたロシアのダンサー&振付師、ヴァーツラフ・ニジンスキーへのオマージュとして、長年ハンブルク・バレエ団で芸術監督を務めるジョン・ノイマイヤーが、デュポンのために創作したものです。コンテンポラリーな振り付けを主役で踊りきったのは、エトワールのマーク・モロー。パ・ドゥ・ドゥーの相手役女性ダンサーは、順にロクサーヌ・ストヤノフ、エレオノール・ゲリノー、そしてハナ・オニール。バッハのピアノ曲の流れるような旋律に合わせた詩的なダンスへ陶酔したかと思いきや、次の演目は何やら意味深そう……。

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「ヴァーツラフ」の1シーン。Photo: Yonathan Kellerman/ Courtesy of Opéra National de Paris

モーリス・ベジャールの振付で男性ダンサー二人だけで展開される「さすらう若者の歌」(Song of the Wandering Companion,1971年)は、かつてはデュポンが、バレエ史上の鬼才であるルドルフ・ヌレエフとともに踊った演目なのです。元々のシナリオは、グスタフ・マーラーが1883-35年に仕上げた、同名の歌曲集。この夜は二人のエトワール、ジェルマン・ルーヴェと人気ダンサーのユーゴ・マルシャンが、熱っぽく、しかも軽やかに、20分のデュオを踊り切りました。

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「さすらう若者の歌」の1シーン。Photo: Yonathan Kellerman/ Courtesy of Opéra National de Paris

再度20分の幕間を挟み、終幕はハラルド・ランダーによる振り付けの、エチュード(Études、1948年)。クラシック・バレエにおける基本的ステップを次々と、しかも流暢に展開させる、アイコニックな演目です。デュポンはこれをこよなく愛し、芸術監督時代にはたびたび年間プログラムに組み込んだとか。まるでライトボックスのようなブルーのシンプルな背景に映えるのは、50人あまりのダンサーたちの、白と黒のコスチューム。時折照明が落とされ、シルエットが浮き彫りになるのも幻想的です。特に圧巻だったのは、最後にダンサーたちがエレガントに、しかも力強く跳躍しながら舞台を横切るシーン。ジャンプの列は舞台の両脇から次第にスピードを増して斜めに前進するので、両列の交差点でダンサーたちがぶつかるのでは、とハラハラさせられました。

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「エチュード」ではシンプルな舞台でクラシック・バレエのテクニックが次々と披露される。Photo : Julien Benhamou/ Courtesy of Opéra National de Paris

こうして感動のうちに公演が幕を閉じたのは、もう22時半過ぎ。この後、ロングドレスやスモーキングに身を包んだ750人ものゲストたちは、宮内のホワイエに設置されたテーブルへ。ディナーは、プロヴァンス・リュベロン地方のホテル&レストラン「ラ・フェルニエール」(La Fernière)のシェフ、ナディア・サミュによるビーツにザクロやアーモンド・クリーム、ローズ・オイルなどを配したアントレに始まり、見た目もクリエイティブ。ガラ公演&ディナーは、パリ・オペラ座の威厳ある存続のためにメセナ管理をするアソシエーション「アロップ」(Arop)によるオーガニゼーションと、パリ・オペラ座公認腕時計のロレックス、そしてパリ・オペラ座バレエ部門のメセナであるシャネル、両社の経済支援によって実現しました。モードやリュクスとカルチャーの密接な関係は、かつてのココ・シャネルによるロシア・バレエ団へのメセナを想起させます。

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パリ・オペラ座ダンス部門ディレクターのジョゼ・マルティネス(中央)と、エトワール・ダンサーの面々。Photo: François Goizé / Courtesy of Opéra National de Paris

最後に、向こう3か月のプログラムから、おすすめ演目を紹介します。

Pit  3月17日〜30日

イスラエル・テルアビブを拠点とするバットシェヴァ・ダンス・ダンスカンパニー出身の二人、ボビー・ジーン・スミスとオア・シュライバーによるコンテンポラリー・ダンス。

Maurice Béjart 4月20日―5月28日

モーリス・ベジャールの代表作3演目のオムニバス。1.「火の鳥」は元々ロシアバレエ団の創作で、ロシア民謡に基づきストラヴィンスキーが作曲した前衛的な組曲を舞踊に落とし込んだ、同名の演目。ベジャールは1970年に、この伝説的な作品を再解釈した。2.ガラでも披露された、「さすらう若者の歌」。3. モーリス・ラヴェル作曲のドラマチックな管弦楽に合わせて、壇上のソロ・ダンサーを、取り巻くダンサーたちが練り踊りながら崇める、あまりにも有名な演目、「ボレロ」。

The Dante Project 4月29日〜5月31日

ダンテが14世紀に綴った、「地獄」、「煉獄」、「天国」の3部からなる一大叙情詩「神曲」に基づき、「ツリー・オブ・コーズ」で名を馳せたウェイン・マクレガー振付した、コンテンポラリー・ダンス。セットは現代アートのタシタ・ディーン。

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パリ・オペラ座ガルニエ宮のホワイエに設置された、ガラ・ディナーの会場。Photo: Virgile Guinard/ Courtesy of Opéra National de Paris

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ガラ・ディナーのテーブル・セッティング。Photo: Minako Norimatsu

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シャネルのアンバサダー、ヴァネッサ・パラディ。Photo: François Goizé / Courtesy of Opéra National de Paris

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オペラ・ガラの常連、ヴァネッサ・シワードが選んだシャネルの一点は、ボトムがレース使いのコンビネゾン。ブランドをクローズした後画家デビューも果たした彼女は、4月に開催されるパリのジョイス・ギャラリーでの展覧会を準備中だとか。 Photo: François Goizé / Courtesy of Opéra National de Paris

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ホイットニー・ピークは、シャネルのフレグランス「ココ マドモワゼル」の新しいキャンペーン・ガール。着用のドレスはもちろんシャネル。Photo: Virgile Guinard / Courtesy of Opéra National de Paris

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ベルギー出身のシンガー・ソングライター、クレール・ラフュ。Photo: François Goizé / Courtesy of Opéra National de Paris

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フランスきってのシンガーソングライター、クララ・ルチアーニ。Photo: Dominique Maitre / Courtesy of Opéra National de Paris

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息の長いエトワール・ダンサー、ドロテ・ジルベールもシャネルを着用。Photo: Virgile Guinard/ Courtesy of Opéra National de Paris

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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