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マリーエレーヌ ドゥ タイヤックに学ぶインド・ジャイプールの楽しみ・その1

4月末、インドの古都・ジャイプールに行ってきました。1999年にはじめて訪れて以来、今度で5度目。2019年の秋にコンセプトストア、ニラハウスのオープニングで、またそのすぐ前には、本誌でマリーエレーヌ ドゥ タイヤック(Marie-Hélène De Taillac)のアトリエ、そして彼女のお気に入りアドレスの取材で行って以来です。思えば、マリーエレーヌが旅行で寄ったこの街で石の美しさと古くから受け継がれている職人技に魅せられ、ファインジュエリー・コレクションを立ち上げたのは、1996年。“宝飾界のさまざまなしきたりから石を自由にする”と言うコンセプトで、装飾を削ぎ落として石の色と輝きを最大限に生かした、コンテンポラリーなデザインが生まれました。それ以来アトリエとセカンドハウスをここに構えるマリーエレーヌが、彼女ならではのフィルターを通して語るジャイプールには、伝統とモダン・インディアがぎゅっと詰まっています。私はラッキーにも、再度彼女の案内で、新しいお店もできてコロナ禍以前の活気を取り戻したジャイプールを満喫することができました。

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マリーエレーヌ宅、ヴィシュヌとラクシュミー(ヒンドゥー教の最高神と女神)の前で。着用ワンピースは友人のシャルル・セブリーヌがデザインするSeblineの春夏コレクションより。

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ジャイプール旅行に持参した、マリーエレーヌ ドゥ タイヤックのジュエリーの数々。Photo: Minako Norimatsu

ジャイプールで必ず手に入れたい、カシミアとカディ製品

まずは滞在先、ナランニワス・パラス(Narain Niwas Palace)があるナランニワス敷地内のショッピングエリアへ向かい、アンドラーブ(Andraab)へまっしぐら。インド北部ラダック地方で厳選したカシミアを使って手織りされているここのショールは最高の品質で、ストライプやチェック、霜降りなどモダンな色柄も豊富です。私が4年前から使っている一品は随分使い込んでいますが、いまだに新品同様。また斜め向かいのサタヤム(Satayam)は、シティパレス(王宮)前にある老舗テキスタイルショップの支店。カディ(インド特有の肌触りも通気性もいいコットン)を使ったウェアやショールを揃えています。

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アンドラーブの店内とカシミアストール。Photo: Minako Norimatsu

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アンドラーブの店内とカシミアストール。Photo: Minako Norimatsu

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サタヤムで見せてもらった、ジュートのラグ。Photo: Minako Norimatsu

 

同じ敷地内のバー・パラディオ(Bar Palladio)は、マリーエレーヌの親友のインテリア・デザイナー、マリアンヌ・ウードゥジャンス(Marie-Anne Oudejans)による内装。ブルーを基調にムガール様式をモダンに再解釈したインテリアは、手描きの壁画や大理石のバーカウンターも圧巻です。2019年の“アドレス”で紹介した近所のカフェ・パラディオは閉店しましたが、パラディオのオリジナル・グッズのショップはバーのすぐ右手に移転しています。モダン・インディアというコンセプトに則ったポップなテーブルウェアやリネンのほか、象や猿のユーモラスな人形も。

バー・パラディオ併設、オリジナルグッズのショップ。

イドゥリにて、色と柄のマキシマリズムを堪能

次は友人のデザイナー、ティエリー・ジュルノに合いに、イドゥリ(Idli)のブティックへ。2019年の“アドレス”で紹介したナランニワスの店舗から、小洒落たブティックが集中するCスキーム地区に移転した店内は広々として、フランスとインドが呼応する彼の世界が生きています。美術史に精通し、画家としての才能にも長けた彼のシグネチャーは、フランスのネオクラシック様式からインスパイアされたデッサン。これに基づいたオリジナル・プリントや刺しゅうは、ウェアに、クッションに、また家具やカーテンに、と店内の至る所に配されています。

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イドゥリ店内。壁の絵もプリントクッションやカーテンのプリント、いずれもティエリー・ジュルノによるオリジナル。Photo: Minako Norimatsu

 

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イドゥリ店内。絵だけでなく、ランプシェードや家具もティエリー・ジュルノのデザイン。Photo: Minako Norimatsu

モダン・インディアンのホームウェアなら、ここ

このすぐ近くには、新しいショップ、エクリュ(Ecru)が。クウェート出身の姉妹、ヌールとヌーアが始めたオリジナル製品のライフスタイルショップです。洗練されたデザインのテーブルウェアやオブジェは、いずれもグラフィカルでポップ。大理石のトレイやパームツリーのモチーフのグラスは、マリーエレーヌも愛用しています。

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エクリュ店内。鏡やパームツリーのランプもオリジナルのデザイン。Photo: Minako Norimatsu

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エクリュのオリジナル、シェル型のコースターとグラスのセット。Photo: Minako Norimatsu

 

同じく彼女の日常に欠かせないのが、グッドアース(Good Earth)のティーカップとお皿。オリジナルの陶器コレクションには、近々ティエリーとのコラボレーションラインもお目見えするとか。ここでは、銅の食器も含めたテーブルウェアのほか、ハウスリネンも充実しています。おすすめはラザイと呼ばれる、南西アジアに特有の軽いキルティングブランケット。

実はこのショップが軒を構えるのは高級ホテル、ラジュマハル・パラス(Rajmahal Palace)の敷地内。前世紀半ばには、当時のラジャスタン地方のマハラジャ、マン・シン2世と、A Princess Remembersなる回想録で有名な彼の妃(マハラニ)、ガーヤトリー・デヴィ(Gayatri Devi)の邸宅だったところです。客室やレストランでは洗練されたインド風アールデコに色と柄をふんだんに使い軽やかさを加えつつ、歴史が息づく重厚なサロンにはロイヤルファミリーの肖像画や写真の一連が。宿泊客でなくともコンシェルジュが案内してくれるので、まるでミュージアムを訪ねたかのような満足感を味わえます。この後は、ブロックプリントの伝統的なウェアや小物、ハウスリネンで有名なアノーキ(Anokhi)内のカフェに寄って、ケーキをテイクアウト。

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ラジュマハル・パレスのスタッフ。Photo: Minako Norimatsu

 

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ラジュマハル・パレスのスイートルーム。Photo: Minako Norimatsu

 

エコフレンドリーなコンセプトストア

そしてこの地区のハイライト、ニラハウス(Nila House)へ。地元のクラフツマンシップを奨励し、テキスタイルのエコロジカルな制作を指導する非営利団体による、コンセプトストアです(詳しくは2019年の記事を参照)。だから品揃えは、天然染料によるインディゴやナチュラルカラーで手作りした生地によるテキスタイル製品が中心。定期的にアンティーク・テキスタイルの展覧会や手織りのワークショップも開かれています。

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ニラハウスの店内。Photo: Minako Norimatsu

 

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ニラハウスのオリジナル。民族衣装を着たラジャスタン地方の女性たちの人形は、なんとも手がこんでいる。Photo: Minako Norimatsu

 

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ニラハウスの中庭に展示された、刺しゅう作品。Photo: Minako Norimatsu

 

シティパレスのすぐ近くで、アンティーク三昧

さて歴史が息づくこの街の観光名所と言えば、ロイヤルファミリーの邸宅であり、宝物やコスチュームを展示する博物館でもある、シティパレス(City Palace)。一部は最近改装され、Airbnbで宿泊が可能となりました。またパレスの入り口にオープンしたのは、 The PDKF Store 。PDKF(The Princess Diya Kumari Foundation)は、マン・シン2世の孫で現役の政治家、ディヤ・クマリ王妃が、地元の女性たちに教養と専門技術を身につける機会を与える財団。ラジャスタン地方の伝統的なプリント生地や刺しゅうを使ってアーバンでカジュアルに仕上げたウェアや小物、ホームグッズの一連をデザインするのは、王妃の娘ゴーラヴィ・クマリ・プリンセスとジャイプール在住のマリーエレーヌの姪、クレール・ドゥローです。

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PDKFストアの看板商品、象とラクダのミニチュア。 Photo: Minako Norimatsu

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PDKFストアの店内、ホームウェアのコーナー。 Photo: Minako Norimatsu

 

またシティパレスのチケット売り場の道を挟んで向かい側には、前述サタヤムの本店が。ナランニワス店よりもさらにカディ製品のバリエーションに溢れるほか、メーター売りの刺しゅう生地は創作意欲を刺激します。また、隣接した同じオーナー父子によるアンティーク店も必見。テキスタイルからジュエリー、スパンコールで装飾した絵画、“テンプル・トイ”と呼ばれるお供え用のオブジェまで、いずれも美術館レベルです。実際ニラハウスでの企画展にも出品していて、この秋には、東京のH.P.FRANCEでの展覧会も計画中だとか。年末には隣にカフェもオープンするそうです。

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サタヤム・アンティーク部門のテンプル・トイ。Photo: Minako Norimatsu

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サタヤムのオリジナル、カディのストールの一連。Photo: Minako Norimatsu

この一角の締めくくりには、ジャンタル・マンタル(Yantra Mandir)を散策。18世紀前半建造のこの天体観測施設や日時計は、建築物としても科学的観点で見ても、驚くほど洗練されています。ちなみにインド人にはITの天才が多いし、お店のスタッフやハイヤーの運転手も暗算が得意なのに驚きます。彼らが数字に強いのは昔からだったんだ、と納得。

ちょうどこれを書いている時、マリーエレーヌからメッセージが。「ジャイプールのカラフルなカオスが恋しくない?」と。

ジャイプール集中講座はその2へと続きます。お楽しみに。

 

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ジャンタル・マンタルの天体観測施設の一つ。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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