アーティスティック、それともレトロ? ニのタイトルイメージ

アーティスティック、それともレトロ? ニッチなスポーティ・ウェア、ふたつのコレクション

ベーシックなだけに、素材や微妙なカッティングがモノを言う、スポーティ・アイテム。今回はそんなこだわりに応えてくれるふたつのコレクションをご紹介しましょう。

スポーティで、リッチ!

まずは、Lacoste x Sporty & Rich。私がこのスポーティ アンド リッチなるブランドを知ったのは、あるPRオフィスのプレスデー。ジョークのようなブランド名に惹かれてラックをチェックすると、グラフィックなロゴのスウェットやTシャツの一連が。どれもレトロ・モダンで驚くほど洒落ていました。何でも、ことの始まりはニューヨークの雑誌でビジュアルコンテンツの制作に携わっていたアメリカ人のエミリー・オーバーグ(Emily Oberg)が、ライフスタイルのムードボードとして立ち上げたInstagramアカウントだとか。2014年の開設以来、日々投稿し続けたのは、主にスポーツウェアをサラリと着こなしたセレブや一般人のスナップ、ウェルネスのネタ。これが話題になり、Instagramは雑誌に発展したのです。印刷媒体を廃止してデジタルオンリーに移行する出版界の動きには逆行して。しかもカルチャーやデザイン、スタイルへとジャンルを広げ、読み応えのある記事も満載。そんなバックグラウンドから自然な形で進化し、4年前に誕生したのが、ウェアのライン。この春には豪華本『The Sporty & Rich Wellness Book Vol.1』が出版されました。240ページに渡って、スキンケア、フード、フィットネス、そしてヘルシーライフ全般に関するアドバイスが、インタビューやエッセイの形で美しい撮り下ろしイメージとともに紹介されています。最近ではアディダスとのタッグで世界的に話題になったものの、今のところ日本での取り扱いはほぼオンラインのみだったSporty & Rich。5月末にローンチされたラコステとのコラボレーションのおかげで、やっと日本でも手に取ることが可能になりました。

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_1

Lacoste x Sporty & Richのオーガニック・コットン・ニットのオーバーサイズ・ポロ¥23,100

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_2

Lacoste x Sporty & Richのオーガニックコットンのオーバーサイズ・スウェットシャツ。背中にはSporty & Richのモットーがプリントされている。白とネイビーの2色展開。¥26,400

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_3

Lacoste x Sporty & Richのコットン・ポプリンのシャツ¥25,300

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_4

Lacoste x Sporty & Richのオーガニックコットンの鹿子ポロ。写真の白×ネイビーと、ブルー×白の2色展開。ポリエステル・コットンのプリーツスカートは、白とネイビーの2色展開だ。ポロ¥31,900・スカート¥19,800

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_5

Lacoste x Sporty & Richのオーガニック・コットンのTシャツは白とブルー、薄いオレンジの3色展開(¥13,200)。ポリエステルコットンのプリーツスカートは白とネイビーの2色展開(¥31,900)。コットン・ナイロンのVネックベストは¥24,200

ミュージシャンによるプロジェクトとしてのウェアコレクション、モザール

そして、モザール(Mosaert)のカプセル・コレクションのNo.8。モザールとはラップ系シンガーソングライターのポール・ヴァン・ハーヴェン(現在は健康上の理由で休業中)と彼のチームがブリュッセルを拠点に2009年に立ち上げた、ビジュアルアーティスト・ユニット。ちなみにMosaertとは彼のアーティスト名、ストロマエ(Stromae)のアナグラム(文字の順番を入れ替えた造語)。またStromae自体は巨匠を意味するマエストロのアナグラムです。モザールとはモーツァルトのフランス語読みであることも、ジャンルはまったく異なれど、音楽という共通点を鑑みると興味深い事実と言えるでしょう。同ユニットはストロマエ自社レーベルによるプロデューサー業の延長として、アルバムジャケットからショーの演出、衣装まで、彼の活動に関わるすべてのクリエーションを統括しています。最近では他のアーティストのアートディレクションも手がけ、ビリー・アイリッシュの「Hostage」やデュア・リパの「IDGAF」のビデオクリップが代表作。

彼らがウェアのコレクションをスタートしたのは9年前で、私はコレット(1997年から20年間パリのトレンドを牽引したコンセプトストア)のウィンドウで初めて見て、好奇心を掻き立てられたのを覚えています。ファッションブランドではなくあくまで自由なプロジェクトであるモザールは、それ以来ファッションシステムに迎合することなく、基本的に1年に一度のカプセルコレクションを発表していて、今回が8度目。ユニセックス、カラフル、グラフィックという3つの柱を据えつつ、コレクションは他のブランド(靴から車まで)とのコラボレーションの形を取ることもあれば、単独なこともあり、その規模も様々です。

ポールの妻でモザールのクリエイティブ・ディレクターであるコラリー・バービエ (Coralie Barbier)によれば、今回のインスピレーションはなんと、肌。彼女は、欠点と見なされることもあるそばかすやホクロが露わな肌を、点描や抽象画に例えます。ヌードカラーからブラウンまでのスキンカラーに、肌とは関係ないライラックやブルーをアクセントカラーに加えて、シュールなプリントが誕生しました。どのコレクションでも、オリジナルプリントはモザールの信条なのです。35点と比較的小規模なこのコレクションのシルエットは、セカンドスキンを思わせるタイトフィット(サイクリングパンツ、レギンス、タイトTシャツなど)から、XXLの超オーバーサイズ(キルティングのセットアップ)まで、サイズ感のコントラストで遊べます。ヒットアイテムは、袖の取り外しが可能なスウェットシャツ。ボブハット、ウエストポーチ、グラフィックなスカーフなどの小物も要チェック。

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_6

モザールのキャンペーン・ビジュアル。グラデーションそばかすプリントのタイトフィットなトップス、レギングはともに€98。ボブハットは€70、リサイクルポリエステルのスカーフは€45。 Photo: Antoine Melis

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_7

モザールのキャンペーン・ビジュアル。オーバーサイズのキルティング・セットアップ(ポリアミド)はジャケットが€519、パンツは€459。袖がたっぷりとしたTシャツ(オーガニック・コットン)は€56。そばかすプリントのフィットTシャツ(リサイクル・ポリアミド)は€89

。 Photo: Antoine Melis

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_8

モザールのキャンペーン・ビジュアル。オーバーサイズのキルティング・セットアップ(ポリアミド)はジャケット€519、パンツ€459。袖の取り外しが可能なスウェットシャツ(オーガニック・コットン)、€129。ショーツは€75。 Photo: Antoine Melis

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_9

モザールのキャンペーン・ビジュアル。トップス€98。Photo: Antoine Melis

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_10

リサイクル・ポリエステルのスカーフ(€45)はシルクのような手触り

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_11

袖の取り外しが可能なスウェットシャツ(€129€)。袖を取ってフレンチスリーブにしたところ

アーティスティック、それともレトロ? ニの画像_12

モザールのクリエイティブ・ディレクター、コラリー・バービエ。Photo: Marine Feraine

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

記事一覧を見る

FEATURE