ファレル・ウィリアムスのマジック。新生ルイ・ヴィトン メンズをレポート
待ちに待った6月20日。パリでは朝から街中がソワソワしていました。マーク・ジェイコブスを起用してプレタポルテが始まった1998年3月、ニコラ・ジェスキエールによるウィメンズの初コレクションが発表された2014年3月、ヴァージル・アブローのメンズウェア・デビューとなった2018年6月……。ルイ・ヴィトンはこれまで何度となくファッションの歴史を塗り替えてきましたが、この日は特別でした。
ボートに乗って、いざ会場のポンヌフへ!
メンズ部門の新しいクリエイティブ・ディレクター、ファレル・ウィリアムスによるショーの開始予定時刻は21時半、会場はパリでセーヌ川にかかる橋としては一番古い、ポンヌフ。当日の朝になると私たちは、20時50分に左岸7区の川岸に集合、という新たなインストラクションを受け取りました。指定の川岸に降りようとオルセー美術館前の前に近づくと、建物のファサードを覆うのは、見覚えのあるイメージ。本コレクションのティザーともいえる、お腹の大きなリアーナと、メゾンのアイコニックなバッグ「スピーディ」を主役としたキャンペーン写真です。ゲストたちのファレルの世界への没入は、ここからスタートしたのでした。
ボートに乗り込んでルーブル宮を眺めながらセーヌ川を東に下ると、10分強でポンヌフへの埠頭に到着。そして階段を登ると、目の前にゴールドの「ダミエ」のカーペットが。なんと、橋全体がジャックされているのです。聞こえてくるアコーディオンは「巴里の空の下セーヌは流れる」「ラヴィアンローズ」など、古き良きパリを思わせる懐メロでした。そして、端に設置された往年のスタイルのキオスクでポスターや本を見たり、エッフェル塔に向かって夕焼けを見ること、しばし。パリでは夏至の前後、日の入りは22時頃なのです。
コレクションには新しいアイデアが満載
22時を過ぎてそろそろ暗くなると、序章として映画がスタート。ファレルの友人で、アメリカのブラック・コミュニティの人物肖像画で知られるアーティスト、ヘンリー・テイラーと俳優のジェロッド・カーマイケルとの会話を収めた2分ほどの作品です。その後、一瞬の静けさに続いてパーカッションの音がこだますると、オーケストラ演奏による、サスペンス映画風の壮大な曲が流れ、ファーストルックが現れました。最初はシンプルに、シックに、ダンディなテーラード・スーツ。この後に続く数ルックは白、黒、ネイビー、カーキでまとめつつ、ダミエとカモフラージュを融合させた「ダモフラージュ」モチーフでポップに、アーティスティックに展開します。次にデニムのピクセル・ダミエを挟み、カラフルな総ダミエルックへとクレッシェンド。
フィナーレはゴスペルのライブが演出
ラガーシャツやスタジアム・ジャンパーは、ファレルの故郷、アメリカ・ヴァージニア州でのハイスクール時代への思い出からだとか。時にはパジャマ風セットアップやドラマチックなブランケット・コートなど、意外なアイテムも登場しました。そしてショーは、クラシックなネイビーのスーツで終幕(コレクションの詳細は7月22日発売の本誌9月号で!)。70を超えるルックの最後の方では、音楽はゴスペルのライブに。ファレル自身が作った曲“JOY (Unspeakable)”を一団となって歌うのは、彼の故郷であるアメリカ・ヴァージニア州から飛んできたコーラス団、Voice of Fireの面々。フィナーレになるとさらに盛り上がり、ゴスペルはファレルが登場してから姿を消すまで、数分間も続いたのです。
ファレルとJay-Z、ステージへ
感動のうちにショーが終わると、しばしカクテルタイム。しかしライブパフォーマンスがあると聞いたゲストたちは、準備中のステージとアーティストたちの出入りのために設けられた通路の周りに詰めかけ、辺りはギュウギュウ詰め。だいぶ経ってから、ショーではビヨンセと一緒にフロントロウに姿を見せていたJay-Zが登場し、ライブが始まりました。そしてしばらくすると、ファレルがジョイン。全員が立ち見をする中、パット・マグラスが最前列でインスタライブを撮っていたり、ステージの後ろ側ではリアーナとエイサップ・ロッキーがヴィトンの最新作に身を包んで踊っていたり、とセレブたちもオープンにエンジョイして、会場の興奮は最高潮に。惜しまれつつ二人がステージを去り、お開きとなったのは、もう0時過ぎでした。
ファレル・デー、もう一つの話題
ちなみに、ショーの当日はファレル・ウィリアムスが昨年立ち上げたオンライン・オークション・ハウスJoopiterの展覧会、Just Phriendsが幕を開けました。これは、元コレットのファウンダーで現在はJust an Ideaという会社名でコンサルティングを生業とするサラ・アンデルマンとのコラボレーションで企画された、ファレルのアート・コレクションの販売。つまり、この日はまさにファレル・デーだったのです! ちょうど日本が朝になった頃、SPURの編集Kさんからはこんなメッセージが入りました。「ファレルは人をまとめる力があるんだな、さすが『ハッピー』を作った人だな、と。ライブストリームを見ていて温かい気持ちになりました」。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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