Resee で、2024年春夏パリ・ファッションウイークを解剖!Part 2
ドリス ヴァン ノッテンでは、ジュエリーにも注目
私もSPUR編集者も欠かすことがないのは、ドリス ヴァン ノッテンのResee。ギミックを嫌いまっすぐに勝負するドリスらしく、特別な仕掛けはありません。ショールームではいつも、多くのバイヤーたちに紛れながらラックにひしめく膨大な数の服を次々と見て、黙々とコレクションのおさらいをします。時々消費者目線になって、歓声を上げながら。限りなく続くのは、ラガーシャツやバミューダパンツ、ブレザーをはじめとする一連のエッセンシャルアイテムの、ドリスらしいユニークなミックス&マッチ。いつものことながら複雑なスタイリングで完成したルックを、解体するかのように一点ずつ念入りに見ると、テキスタイルのオリジナリティやシルエットのひねりに驚かされます。
また、無類のジュエリー好きの私の目が釘付けになったのは、シャツやステンカラーコートの前立ての装飾と、パールやラインストーンを大胆に散りばめたカフブレスレット。余談ですが、左岸のQuai Malaquaisに7月にオープンしたドリスのビューティのブティックでは、現行コレクションに加え販売されていた、過去のコレクションからの掘り出しものジュエリーを発見!
パコ ラバンヌのクリエーションを収めた、1969年の写真集
アート心を揺さぶられたのは、パコ ラバンヌ改めラバンヌにて。クリエイティブ・ディレクターのジュリアン・ドッセーナは、メゾン創始者パコ・ラバンヌ(去る2月に他界)が発明したメタル・メッシュを毎シーズン刷新しています。今回ショールームで見たのは、ジュリアンにとって永遠のインスピレーションソースであろう貴重な写真集、「Nues」(Pierre Belfond刊、1969年)。肌を見え隠れさせるメタルメッシュのドレスや小物以外は文字通りヌードの肢体をジャン・クレンマー(Jean Clemmer)が撮ったモノクロ写真の集大成があまりに素晴らしく、私は早速これについて調べてみました。
ジャン・クレンマーは、当時パリの高等芸術学校を卒業したばかりのパコ・ラバンヌのクリエイティブ・パワーに惹かれてアプローチし、服や小物を借りて定期的に撮影するように。これを見た編集者のピエール・ベルフォンの提案により、ラバンヌ氏自身もコラボレートしてできたのが、この写真集だったとか。この夏にはカンヌで写真展が開かれたものの、本自体は廃版。いつかオークションで手に入れたいと思っています。
アーデムのミューズは、エルヴィス・プレスリーのファンだった?
私は今回ロンドン・ファッションウィークに行けなかったのですが、大好きなアーデムのコレクションがパリでも見られると聞いて、早速スケジュールに組み入れました。デザイナーのアーデム・モラリオグルをゲストディレクターとした『A Magazine Curated By』の2022年秋号は一冊丸ごと彼の世界観でまとめられていて彼のアートへの傾倒ぶりが顕著だったので、最新のテーマについて知るのが楽しみだったのです。ショールームでは、リリースだけでなくムードボードでコレクションのテーマを一望できました。
今回のミューズは、デボラ・カヴェンディッシュ(トップモデルだった故ステラ・テナントの祖母)。結婚によりデヴォンシャー公爵夫人となった後は、朽ち果てようとしていたチャツワース城の整備に貢献したことでも知られています。このお城には2017年に「House Style: Five Centuries of Fashion」展を見に行ったことがあったので、イメージできました。また彼女は高貴な地位に関わらず家事やガーデニングを楽しみ、一方エルヴィス・プレスリーの大ファンだったそう(今で言う推し活?)。ちなみに、エルヴィスの妻をヒロインとしたソフィア・コッポラの新しい映画『プリシラ』(この夏のヴェニス・モストラ国際映画祭で発表)が来年頭に公開されますから、キラキラなエルヴィス・ファッションはこれから来るかもしれません。
お城で見るもよし、ショールームで触れるのもよし。ヴァレンティノの手仕事
プレスリーといえば、私は映画『エルヴィス』を撮った監督、バズ・ラーマンのファンで、7月に開かれたヴァレンティノのオートクチュールのショーのアフターパーティで彼を見かけた時には、大胆にも話しかけてしまいました。そこで、フラッシュバック。
ショーの舞台となったのはパリから車で約1時間半、17世紀建造のシャンティイー城でした。コレクションに付けられたタイトルは、”城”に冠詞ではなくあえて不定冠詞をつけた”Un Chateau"(One Castle、の意)。つまり歴史的にも様式の上でも特別なロケーションを選びつつ先入観を取り払い、豪奢なオートクチュール作品をも軽やかに見せること。ミューズやアート、特定の時代といったストーリー性とはまったく異なる、なんとも哲学的なテーマです。そのためか、城の中ではなく外に設置されたランウェイでは、バロックなプリントから刺しゅう、羽細工、ミルフィーユのごとく重なり合うラッフルなど、気の遠くなるほど凝った手仕事の数々が、削ぎすまされたピュアなシルエットで展開されました。
ショーの後、お城の中を見学できるというのでツアーに参加すると、なんと絵画ギャラリーはバックステージに! Reseeと銘打っていたわけではありませんが、一緒にいた友人は「これまで見た中でもっとも美しく特別なReseeだ」と、絶句。絵画を背景にクラフツマンシップを極めたドレスがずらりと並んだ光景には、私も息を呑みました。
この驚きのバックステージで触れてこそ、"非日常を日常に見せかけるトロンプロイユ"が浮き彫りになったのは、カイア・ガーバーが纏ったファーストルックのボトム。オーバーサイズのパーフェクト・シャツに合わせたヴィンテージの“ジーンズ”には、実は80もの色調のビーズが刺しゅうされていました。またここで見た手仕事のひとつ、延々と繋がる手作りモチーフを思い出すと、最新のプレタポルテとの関連が顕著。10月頭にヴァンドーム広場のショールームで見た最新コレクションのReseeでも、同じ手法が見られました。肌を見せつつ、挑発的なセクシーではないというパラドックス。Reseeだからこそ、ピエールパオロ・ピッチョーリのアプローチの奥深さを感じ取ることができたのです。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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