2025FW メンズのハイライト【ルイ・のタイトルイメージ
2025.02.14

2025FW メンズのハイライト【ルイ・ヴィトン】【ディオール】【ドリス ヴァン ノッテン】……

「ルイ・ヴィトン」では友情がクリエイティブパワーに

1月終盤、パリのメンズ・ファッションウイークが開かれた。例年通り、トップバッターはルイ・ヴィトン。“リメンバー・ザ・フューチャー”と題された今回のコレクションでメンズ クリエイティブ ディレクターのファレル・ウイリアムズは、25年近くに渡る親友、NIGOとの広義でのコラボレーションを果たした。ファレル言うところのPhriendship(フレンドシップ)に根ざした、多角的なコレクションだ。二人は着想源にはこと欠かない。特にニゴのストリートウェアのコレクションは、1万点にも上るそう。

 

サブカルチャーへの情熱と知識をシェアする二人だからこそ、コレクションではダンディと “ストリート”が巧みに融合。具体的にはテーラードスーツ、スタジアムジャンパー、ボンバーズ、バイカージャケットをはじめとするスポーティなエッセンシャルアイテムが挙げられ、共通項としてネクタイが多用された。日本の要素としては色合いで桜のピンク、抹茶を思わせるグリーン、素材ではかすりや七宝織り、テクニックではボロ布の継ぎはぎ風パッチワークが。特にピンクはランウェイの装飾に、ボタンに、ダモフラージュ(ファレルが発明した、ダミエとカムフラージュのハイブリッド)に、トランクに……と幅広く取り入れられた。また「Louis Vuitton Shibuya」なる表記や、歪んだモノグラムは、まるで2000年代初期にラッパーたちがトレンドにしたブランドコピーもののパロディにも思え、二人の遊び心が顕著だ。とにかく溢れんばかりのアイディアはまるでエクセルファイルで緻密にオーガナイズしたかのように完璧なバランスで散りばめられ、交錯し、ファレルxNIGOの世界を確立している。

 

ちなみに、巨大な一つの円形を描いたランウェイに数メートルおきに設置されたのは、ワンダーウォールの片山正通による、リサイクルの木を使ったショーケース。これらはフィナーレまでは単なる直方体のボックスにしか見えなかったのが、ショーが終わると中からライトアップされ、展示品があらわになった。浮かび上がったのはルイ・ヴィトンのアーカイブスに加え、二人が収集してきたファッションからデザイン、音楽に渡るパーソナルコレクションの数々。これらはショーの後、ファレルのオークションサイトJoopiterで販売された。

 

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コレクションで目立ったのは、桜を思わせるピンク。ダストバッグはカジュアルなクラッチバッグに再解釈された。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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浮世絵に見る雲を思わせるパターンをストーンウォッシュデニムの端ぎれで構成した、名付けて“ボロ”パッチワークのルック。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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モノグラム おベースボールシャツは、カタカナ表記で遊び感たっぷり。対照的に、バッグはエレガントなサテンで。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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フィナーレにて、ファレル・ウィリアムス(右)とNIGO。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

 

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ゲストには、最近コラボレーション・アイテムのリバイバルをヒットさせた村上隆(左)と、ブランド・アンバサダーの平野紫耀(中央)、スケートボーダー堀米雄斗も。平野さんはシュプールにショーの感想も語ってくれた。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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ランウェイに設置されたショーケースでの展示は、ルイ・ヴィトンのアーカイブズに加え、ファレルとNIGOのコレクション。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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新作バッグも数知れず。ショッパートートには新しいミニサイズが加わった。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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サングラスもピンクのトーンで。アイウエアでは、2004年にファレルとNIGO二人のプロジェクトであるミリオネアズ・ボーイズ・クラブがメゾンとコラボレーションをした経緯がある。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

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コラボ・ヒットの元祖、マーク・ジェイコブズとスティーヴン・スプラウズによるキープオールを彷彿とさせる、スクリブル(落書き)バッグ。文字はNIGOの手描き。Photo: Minako Norimatsu

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お茶の道具一式を収めたトランクは外側はモノグラム、内側はダミエ。Photo: Minako Norimatsu

Photo: Minako Norimatsu

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NIGOとファレル、二人の横顔のシルエットはこのコレクションの多くのアイテムに配された。ノートやスティッカーボックスなどのグッズも。Photo: Minako Norimatsu

 

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“ボロ“パッチワークをモノグラムとダミエでも。Photo: Minako Norimatsu

 

キム・ジョーンズが飾った有終の美、「ディオール」

今シーズンの主役はなんと言っても、ディオール メンのキム・ジョーンズ。話題の理由は、まずはコラボレーションはせずに服にフォーカスしたコレクションの完成度と、シンプルなだけにインパクトのある演出の素晴らしさ。加えて彼がその功績を評価されてレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞したこと。そして、なんとこのショーを“有終の美”とすべく、31日には2018年よりメンズウェアの概念を刷新してきた彼の退任が発表されたのだ。

本コレクションの核となったアイディアは、ムッシュ ディオールが1954-55年秋冬オートクチュール・コレクションで発表した“Hライン”の、メンズウェアへの落とし込み。ウエストを絞ったバージャケット、生地をふんだんに使ったコロールスカート、そしてドレープやフリルを駆使した極めてフェミニンなシルエットをシグネチャーとしたクチュリエが行き着いた、非常にグラフィックで角張ったシルエットだ。それとは対照的なもう一つの着想源は、18世紀ヴェニスきってのウーマナイザーでジャンルを越えてのアーティスト、社交家として知られるジャコモ・カサノヴァ。つまり18世紀の豪奢から19世紀のシンプルさと機能性へ、と言うメンズウェアの進化が根底にあったとか。歴史を紐解いたとは言えレトロには転ばず、結果としてのコレクションはあくまでコンテンポラリーに完成されている。冒頭と終盤にクチュール・ピースを盛り込みつつ。

息を呑む美しさのファーストルックでは、コートを解体、再構築したロングスカート風ボトムをタイトなトップに合わせて。そしてショーが進むにつれ、シンプルなドレープで形づくったレザージャケット、オペラコート、ムッシュ ディオールによる1948年秋冬の“ポンディシェリ”刺繍を施したピンクのローブ、ダブルブレストのナポレオンジャケットや、そこから派生したニットなどが際立った。いずれも控えめに、かつ確実に、男の色気を感じさせるアイテムだ。まったく主観的な意見だが、キム・ジョーンズはアーティストとのコラボに基づくより、服の成り立ちにフォーカスする方が本来の才能を発揮できているように思える。最近では1年前のルドルフ・ヌレエフにインスパイアされたコレクションも素晴らしかった。今後のことはまだ発表されていないが、また彼が私たちの胸を躍らせてくれる日が来るだろうか。一方では、彼が築いた新しいディオールのメンズの土壌を今後誰が肥やしてくれるかが楽しみだ。

 

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フィナーレ。手前左、目にリボンでマスクをしたのがファーストルック。Photo: Courtesy of Dior

 

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シンプルながら、クチュールの技術でのドレープ使いでかたづくったレザーのトップ。Photo: Courtesy of Dior

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ボタンのかけ方で2ウェィできられるニットのトップ。女性も着たいアイテムだ。Photo: Courtesy of Dior

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非常にデリケートなビーズ刺繍を施したジャケットは、キーアイテム。Photo: Courtesy of Dior

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リボン使いのサテンのシャツやオペラコート、シルバーのシャトレーヌ・ビジューなど今回のキーアイテムがぎゅっと詰まったバックステージでの一シーン。

サヴォワフェールのビデオ。Hラインやポンディシェリ刺繍について、アトリエのコラボレーターたちが語る。© Video: MélindaTriana Special credit: Amal Embroideries

席がステージから遠くても正面だったことが幸いし、全体像をうまく抑えての最初の1分。階段のディテールがとんでいるためシュールなイメージがうけたのが、かなりバズって現在ビューは7万強。多くの人からの反響に、キムへの評価と興味が感じ取れる。Video: Minako Norimatsu音楽はTIME LAPSE (MICHAEL NYMAN) 演奏 MICHAEL NYMAN BAND © MICHAEL NYMAN LTD / CHESTER MUSIC (P) 2018 MICHAEL NYMAN LTD COURTESY OF WISE MUSIC FRANCE

 

今後のディレクションを示唆?「ドリス ヴァン ノッテン」

展示会形式で並んだルックの一連は、ジュリアン・クロスナーが率いる”デザインチームによるコレクション”として発表された。丈の長いツイードのピーコート、トレンチ、パフスリーブのダッチェスサテンのコート、大きなボウのラヴァリエール・シャツ、花をプリントしたバイカージャケット...。素朴さと豪華さ、ダンディとスポーティ、ソフトとハード、ダークとヴィヴィッドが交錯する38ルックの着想源は、ビート派の詩人・作家、ウィリアム・S・バロウズの退廃的な小説The Wild Boys (「猛者」 死者の書、1990年)だとか。とは言え花やスカーフでスタイリングされたルックの一連では、ダークロマンスがデカダンスを凌いでいる。プレゼンテーションの会場に掲げられ、ルックブックとしても公開されたウィリー・ヴァンデルペールによる映画的、絵画的な写真の数々も、そんな世界観のアピールに一役買っているだろう。昨年春にアントワープのMOMU(モード美術館)での彼の回顧展を見たが、いくつかの作風を持つ彼の作品でもこの仕事はベストの一つ。クリエイティブ・ディレクターとしてのジュリアンの仕事があらわになるのは3月のウィメンズのショーにてだが、今回のメンズはヒントだと言えるだろうか?期待は既に大きく膨らんでいる。

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襟なしのシャツと、ヘビーウールのオーバーサイズ・ピーコート。Photo: Willy Vanderperre

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ピンストライプのウールのピーコートはナポリ流テイラリングで、ややプリーツを寄せたソフトショルダー。ショートパンツを合わせて。Photo: Willy Vanderperre

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このダブル・ブレステッドのブレザーも、肩パッドを入れないナポリ流スリーブ。ラヴァリエール・ブラウスとワイドパンツを合わせて。Photo: Willy Vanderperre

日本のニューホープ、シュタインがパリ・デビュー

浅川喜一郎がデザインするユニセックスなブランド、シュタイン(ssstein)は、昨年9月にFASHION PRIZE OF TOKYO 2025を受賞したばかり。パリでのショールームは3回目となる今シーズン、海外では初めてのショーを開いた。彼は、ファブリックはもちろんステッチの幅、ハードウェア、加工した場合の皺のより具合まですべてにこだわり尽くした服作りで、日本では既にコアなファンを掴んでいる。常に新しいシルエットを追求するのはもちろん、定番のディテールやシルエットを少しずつアップデートしていき、シーズンらしさを出す。遊び感は、幾通りにも着られるアウターや質感で遊んだニットで。レゾノンス(反響、共鳴)をキーワードとした今回は同色異素材のレイヤーで、グレーのニュアンスに深みを出した。また女性にも好評のデニムに力を入れた今シーズンは、ストーンウォッシュした上にエアブラシで顔料を吹き付け、ブロッティング(ジャクソン・ポロックの絵画の如く、手作業でインクのシミを垂らすこと)を施したジーンズがキーアイテムだ。触って、着て初めて良さがわかる服だが、レイヤーを効かせたスタイリングで、最新ランウェイのルックは海外のプレスやバイヤーの目にも留まったようだ。

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ダメージ、エアブラシ、ブロッティング……。デニムにはさまざまな加工が施されている。Photo: Courtesy of SSSTEIN

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グレーのレイヤーで見せたルックでは、ロングベストとコートを合わせた定番、“ドッキング”アウターを合わせて。Photo: Courtesy of SSSTEIN

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定番のダブル・ラペルのジャケットには、新作のチューブ・ベルトを。Photo: Courtesy of SSSTEIN

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レザーのワイドベルトは今シーズンのキー・アクセサリー。ジャストウエストはもちろん、コルセット風に上半身を包み込む形で着てもいい。Photo: Courtesy of SSSTEIN

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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