3月8日、パリ・貨幣造幣局で開かれたエルメス「ルージュ エルメス ルージュ ブリヤン シルキー」発表会の一部始終をお届けする。

パリでのイベントで始まった「ルージュ エルメス」の新しいチャプター
3月8日、パリ・貨幣造幣局で開かれたエルメス「ルージュ エルメス ルージュ ブリヤン シルキー」発表会の一部始終をお届けする。
エルメス ビューティの最新形、「ルージュ ブリヤン シルキー」
2月下旬、エルメスから名刺大の小さな封筒が届いた。開けてみて、そのサイズと形に納得。エルメスのレザーに象徴的なボルドーがかった赤の表紙をめくると、口元の原寸に近い唇の写真4枚がアコーデオン状に連なっている。折しも今年は、この色がルージュ・アッシュ(Rouge H)と命名されて100周年に当たるとか。写真に見る艶やかな唇を彩るのは、ダークからピンク系まで、4つのトーンの赤。この小冊子は「ルージュ エルメス」の新コレクション、「ルージュ ブリヤン シルキー」発表会へのお誘いだった。

「ルージュ ブリヤン シルキー」発表会のインビテーション。Photo: Minako Norimatsu
思えば、エルメスの新しいメティエ(フランス語で職業、の意味)として「エルメス ビューティ」がローンチされたのは、ちょうど5年前。幕開けを飾ったのはサテンとマット、2つのテクスチャーから成る各24色のリップスティックと鏡やブラシなどの小物たちだった。1年後にはブラッシュの一連を発表。そして、グレゴリス・ピルピリスをボーテのクリエイティブ・ディレクターに迎えた2022年の秋以降は、アイメイク製品とリップ用ペンシルもローンチし、メイクアップの基本的アイテムは出揃った。だから「ルージュ ブリヤン シルキー」は、必要性からではなく、さらなる可能性を広げるために生まれた新しいチャプター、と言っていいだろう。最初の24色はエルメスのシルク製品に見る色調だったが、今回グレゴリスをインスパイアしたのは、シルクの滑らかな質感と柔らかさ、透明感と軽やかさだとか。
こんな前知識をもとに、パリ・ファッションウィークたけなわの3月8日の夜、私たちは発表会へと出向いた。会場はセーヌ沿いの貨幣造幣局。18世紀建造、ネオクラシック様式建築の最高傑作の一つとされる建物だ。普段ここでの展覧会やイベントでは河岸のメインエントランスから入ることが多いが、今日の入口は脇道に。“ネオクラシック”とはかけ離れたシンプルな階段を登ると、がらんとしたモノクロームの部屋には実験的な環境音楽が流れ、床から霧が立ち込めている。それぞれのテーブルについたミステリアスな女性たちがまとっているのも、グレーの濃淡。無機質な雰囲気の中、唯一の装飾的要素は冷たい光を放つピンクのネオンライトと、テーブルの先端を模るリップの形。トランプのようなカードを持った彼女たちの一人に招かれ前に座ると、カードを切るよう促された。タロット占いかと思いきや、数枚並べられたカードから一つを選ぶと、裏側には色づけしたリップのイラストが。偶然か、その色は私が愛用しているルージュ・カザック! 「Bon voyage(よい旅を)」と言われて渡されたカードを見ると、まるでおみくじのように一筆が書いてある。“You are dazzling”(あなたはとても魅力的)。

無機質な最初の部屋と、奥の通路への入り口。Photo: © Bea de Giacomo

最初の部屋、リップの色選びのステップ。Photo: © Bea de Giacomo

グレーを纏った女性による、いわば色占い。テーブルの先端は唇をかたどって。 Photo: Minako Norimatsu

私が選んだカードに記された色は、真紅のルージュ・カザック。Photo: Minako Norimatsu

ルージュ・カザックのイラストと、おみくじ的な一言。Photo: Minako Norimatsu
色と質感への感受性を高める、アートな演出
賛辞にいい気分になってこの部屋を後にし、次の“旅”へのカーテンを開くと、今度は赤のグラデーションによる長い廊下が。光や色による視覚効果で見せるコンテンポラリーアートに似た、イマーシブなステップだ。そして通路を抜けると、クリスタルのシャンデリアや壁のレリーフが壮大な大広間にたどり着く。18世紀の装飾とは対照的に、今日の演出はカラフルな円形のスポット投影も含め、極めてグラフィック。赤のダンスフロアには「ルージュ ブリヤン シルキー」のリップスティック・ケースを拡大した3つの大きな円柱が設置され、壁の大理石の円柱と対比を成している。しばらくするとメタリックな円柱の上部が開き、リップスティックの色あいを纏ったダンサーたちが現れた。聞こえてくるのは、オリビア・ニュートン=ジョンのヒット曲「ザナドゥ」。このタイトルが桃源郷や歓楽の都をも意味する言葉だからか、またはカラーセラピーの如く楽しげな色がもたらす心理効果か、会場は幸福感に包まれた。ゲストたちはまずモノクロームで無機質な最初の環境にて意識の中の色を洗い落とし、四方を赤に染めた通路を通り抜けたところでここに行き着くという設定で、色と質感に対する感受性が高められたのかもしれない。

無機質な色選びの部屋とカラフルな演出の大広間をつなぐ、赤の通路。Photo: Minako Norimatsu

大広間に設置された、「ルージュ ブリヤン シルキー」の容器を拡大した円柱。Photo: © Bea de Giacomo

「ルージュ ブリヤン シルキー」円柱の蓋が開いたところ。Photo: © Bea de Giacomo

円柱の下部をステージに見立てて踊り始めるダンサー。Photo: © Bea de Giacomo

大広間での、カラフルな円形スポット投影。Photo: © Bea de Giacomo
三人三様、「ルージュ ブリヤン シルキー」の楽しみ方
さて肝心の「ルージュ ブリヤン シルキー」は……と探してやっと最終ステップに。大広間横の通路はリップスティック・バー、奥の部屋はメイクアップアーティストにリップを塗ってもらえるメイクアップルームになっている。鏡台はピンク、スツールはピンクやブラウン系レッド。「ルージュ ブリヤン シルキー」は一度塗りなら軽やかに、二度塗りでリッチに、また他のテクスチャーのルージュ エルメスの上から仕上げとして塗れば、シルキーで艶やかな質感をプラス、と複数の楽しみ方を提案してくれる。自分でつけても、そしてペンシルで輪郭をくっきりと描かずとも、かなりの鋭角を成す先端のおかげで一瞬のうちに綺麗な仕上がりに。エルメス ビューティの根底に流れる、メイクアップ時の美しい“ジェスチャー”に導いてくれる形だ。

大広間の横の通路、リップスティック・バー。Photo: © Bea de Giacomo

大広間の奥、メイクアップルームに並んだ「ルージュ ブリヤン シルキー」の一連。Photo: Minako Norimatsu

メイクアップルームにて。メイクアップアーティストたちは、ブラシやペンシルをエルメスのポケット・ベルトに収納。Photo: Minako Norimatsu

エルメス ビューティ部門のクリエイティブ・ディレクター、グレゴリス・ピルピリス、Photo: © Virgile Guinard

発表会の2日後に訪れたオブジェ エルメスの展示会でも、「ルージュ ブリヤン シルキー」の定番とシーズン限定3色をキャッチ。(左からべージュ・ハロ、定番14色用、オランジュ・フラッシュ、ローズ・ジェラティーヌ)

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/