都市を脱出し、自然に囲まれた環境でアートを見ると、感激もひとしお。ここでは二つの違うタイプの展覧会を紹介する。

南仏の自然に囲まれた環境で見る、二つのアート展
都市を脱出し、自然に囲まれた環境でアートを見ると、感激もひとしお。ここでは二つの違うタイプの展覧会を紹介する。
島のアート財団で、”めまい”に身を任せる
コートダジュールの街イエール(Hyères)沖の港から約20分船に揺られ、パラダイスのような島、ポルクロルへ。南仏で最もオーセンティックなビーチがあると言われるバカンス地でもあるのだが、ここに来る人々のお目当ては、なんと言ってもカルミニャック財団だ。起業家・資産家のエドゥアール・カルミニャックが創設したこのアート財団は、彼が蒐集してきた近代・現代アート300点余りを擁する。また2018年から毎年アートセンターで催される企画展は、ユニークな視点で定評がある。今年の展覧会のタイトルは、めまいを意味するヴァーティゴ(VERTIGO)。コンセプチュアルなテーマの背後にあるのは、焼け付くような太陽、南仏特有の季節風、海の荒波、と言ったこの島の環境だ。キュレーターのマチュー・ポワリエが選んだのは主に1950年代以降の、錯覚を起こさせる絵画やスカループチャー、インスタレーション。グラデーションの抽象画、極彩色のオプ・アートから、逆にイヴ・クラインの一色で塗りつぶした作品まで、アプローチはさまざまだ。またスカルプチャーでは、見る角度によって異なる眺めを呈する万華鏡のような作品もあれば、どこから見ても完璧に同じに見えるオブジェも。つまり基準は色や技法ではなく、夢幻的な感情を想起させることなのだ。50点あまりのセレクトでは、知覚の混乱を扱うことで有名なオラファー・エリアソンやジェームズ・タレルはもちろんだが、若手アーティストも含まれた。
ちなみにアートセンターの周りにはオリーブ畑やぶどう畑が広がり、エキゾチックな植物で埋め尽くされた広大な公園もある。園内には常設でスカルプチャーが点在するから、気の向くままに歩いてアートを見つけて驚くもよし、地図を片手に展示を網羅するもよし。ローカルなプロダクツにこだわったレストランも、美味だ。
VERTIGO展はFondation Carmignacにて、11月 2日まで
Villa Carmignac
Ile de Porquerolles – La Courtade 83400 Hyères
イエールまではパリからTGVと在来線を乗り継いで4時間半、またはToulonまでエア、空港からタクシーで約15分。イエールから車で約30分のラ・トゥール・フォンデュ(La Tour Fondue)港からポルクロル島までは定期便の船が出ている。

オラファー・エリアソン「Your vanishing」(2011)はブランズと鏡、ガラス、ステンレスを使った万華鏡のようなスカルプチャー。 © Olafur Eliasson Photo : © Fondation Carmignac / Thibaut Chapotot

フランク・ボウリングによるアクリル画「Hello Rosa」(New York,1973)はカルミニャック蔵。Courtesy of the artist and Hauser and Wirth © Frank Bowling / All Rights Reserved, DACS 2025 / ADAGP, Paris, 2025 Photo: Damian Griffiths

ヘスス・ラファエル・ソトによるメタルとナイロンフリンジのスカルプチャー「Esfera Amarilla」(1984)は直径3m。(個人蔵)courtesy de la galerie Elvira González, Madrid ©Jesús-Rafael Soto / ADAGP, Paris, 2025 Photo : © Thibaut Chapotot - Fondation Carmignac

手前はイヴ・クラインのクライン・ブルー色素のインスタレーションと「青の雨」の再現(共にオリジナルは1957)Yves Klein / ADAGP, Paris, 2025。左の壁はアンナ=エヴァ・ベルイマンの「No 15B-1963 Néant d’argent」(1963)Anna-Eva Bergman / ADAGP, Paris, 2025、右の壁は左:ヒューゴ・シュヴァー・ボスの「Eleonor 」(2024)Hugo Schüwer Boss / ADAGP, Paris, 2025、右:ゲルハルト・リヒターの「Wolken (Grau)」(1969)©Gerhard Richter Photo : © Fondation Carmignac / Thibaut Chapotot

左:ゲルハルト・リヒターの「Abstract painting」(2009) ©Gerhard Richter 右:ヘレン・フランケンサーラーの「Petroglyphs」(1990)Courtesy of Fondation Helen Frankenthaler, New York / Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, 2025 Photo : © Fondation Carmignac / Thibaut Chapotot

アン・ヴェロニカ・ヤンセンスの「Magic Mirrors (Pink & Blue)」( 2013-2023) Courtesy of the artist, Esther Schipper. ©Ann Veronica Janssens / VG Bild-Kunst, Bonn 2025 Photo: Minako Noimatsu

ジェームズ・タレルの光の投影による「Prado, Red」(1968)Courtesy of Almine Rech ©James Turrell Photo : Minako Noimatsu

カルミニャック財団のゲートから数分歩き、オリーブ畑を脇に見ながら緩やかな坂を登ると、アートセンターの入り口にはミゲル・バルセオのスカルプチャー「Alycastre」(2018)が。Photo: Minako Noimatsu

本展とは関係なく、年間を通じて広大な庭にはエキゾチックな植物に混じってアートも点在。トム・サックスのブロンズ像「Bonsai」(2018) Photo: Minako Noimatsu

こちらも庭の一画を成す常設展から、イェッペ・ハインの鏡のラビリンス「Path of Emotions」(2018)カルミニャック蔵。Photos: Studio JTM
ホテルとワイナリーを備えたギャラリーは、プロヴァンスに。
プロヴァンス地方ユゼスのワイナリー、ドメーヌ・デ・パネリーは、2018年にオープン。17部屋の宿泊施設とレストランも備えているが、ここが特別な理由は、ギャラリーとのパートナーシップにある。母家の向かいの元倉庫を陣取るセッソン&ベネティエール・ギャラリーは、パリ、ニューヨークをはじめオープンしたばかりの東京も数えると、世界で9件。フランク・ステラなど大物も扱うが、若手や中堅のサポートでも定評がある。パネリー内でのこの春〜初夏の展示のゲスト・アーティストは、マルセル・デュシャン賞を獲得したばかりの有望株、リオネル・サバテ。彼は自然、特に大地や動物の神秘性をライトモチーフとし、表現方法は絵画、写真、ドローイングからスカルプチャーまで。今回はギリシャ神話や民話、童話にも登場することから意味深い動物であるフクロウを題材とし、素材には火山灰のポゾラン粉末を取り入れた。ちなみに展覧会タイトル「サッフォー・パテラ」は、金星の火山の名前。パネリーの葡萄畑とオリーブ畑のここそこには、表情豊かな大型フクロウのスカルプチャーたちがまるで守護神のように配された。またギャラリー内では小さなブロンズのフクロウ像と共に、抽象画も展示。描く際彼はイーゼルを使わないでキャンバスを床に置き、シルクの端切を散らし、ポゾラン粉末を混ぜた絵の具を流し込む。まるでロールシャッハ・テストのような抽象画は、こんなプロセスから出来上がるのだとか。パネリーではアート散策の後、醸造所見学や、自社ワインと自家製オリーブオイルのテイスティングも可能だ。レストランのメニューも、ワインとオリーブオイルに軸を据えている。
Lionel SABATTÉ Sappho Patera展は6月14日まで。
Domaine de Panéry 内Ceysson & Benetièreギャラリーにて。
Route d’Uzès 30210 Pouzilhac
パリからアヴィニヨンはTGVで約3時間、駅からタクシーで30分前後

3,5Mもあるフクロウのスカルプチャー「La Chouette – Ouest」 (2025)と、リオネル・サバテ。Photo:Minako Norimatsu

ギリシャのフクロウ「シュヴェッシュ」は宿泊施設の前に。「Chevêche du 21-03-2015」(2025)。Photo: Minako Norimatsu

ギャラリー内に展示された、小さめのフクロウのスカルプチャー。左は 「Chouette du 02-04-2025」(2025)、右は「Chouette du 03-04-2025」」(2025)。Choustteはフクロウの意味。Photo: Minako Norimatsu

葡萄畑を見おろすこちらのフクロウは4M、「La Chouette – Sud 」(2025)。Photo: Minako Norimatsu

ギャラリー内観。左の絵画「Le Cratère du lion」(2025)はキャンバス地に油彩、シルク端切とポゾラン粉末。スカルプチャーは左「Phoenix du 01-02-2025」(2025)、右「Phoenix du 01-03-2025」(2025)。Photo: Cyrille Cauvet

レストランにも、リオネルの作品が。共にアクリル画ドローイング「Bûcher 」(2018, 2019)。Photo: Cyrille Cauvet

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/