マチュー・ブレイジーによるシャネルでのデビュー・コレクションで注目された、パリの老舗「シャルヴェ」。その歴史を紐解き、こだわりの生地と技術を探る。

パリの老舗シャツメーカー、【シャルヴェ】のアトリエとブティックへ

マチュー・ブレイジーによるシャネルでのデビュー・コレクションで注目された、パリの老舗「シャルヴェ」。その歴史を紐解き、こだわりの生地と技術を探る。

シャルヴェの創業者は、ナポレオンの衣装管理係の息子

パリ・ヴァンドーム広場に軒を構える、シャルヴェ。ナポレオンの衣装管理係を父に持つジョゼフ=クリストフ・シャルヴェが、シャツ専門店として1838年に創業した。その後シルクの小物も加えて代々家族経営で発展したが、1960年代半ばにはメゾンに生地を卸していたドニ・コルバン氏が新しいオーナーとなった。そして氏が他界した1994年以降メゾンを引き継いだのは、二人の子供たち。兄のジャン=クロードは今でもテキスタイル・デザインを手がけ、妹のアンヌ=マリーはコミュニケーションを担当。メゾンの歴史を飾る顧客に数えられるのは、イギリスのエドワード7世からシャルル・ボードレール、ジャン・コクトー、イヴ・サンローラン、ソフィア・コッポラなど。またガブリエル シャネルは当時の恋人、ボーイ・カペルに倣って、自身でもシャルヴェのシャツを着ていたとか。そんな経緯を踏まえてか、マチュー・ブレイジーはこの老舗の戸を叩き、3型のシャツを形にしてシャネルでの初プレタポルテ・コレクションに取り入れた。

「シャネルのチームとは、我が社ならではの生地と、特別な技術をシェアしました。コラボレーションと言うより、カンバセーションです」と語ってくれたのは、アンヌ=マリー・コルバン。
「内側も表側と同じくらい完璧なのが、シャルヴェのシャツの特徴の一つです。特にストライプやチェック地では、外側と内側、そして前立てや襟と言ったパーツの接点でも、模様がうまく続くよう、最新の注意を払っているんです。襟は特に大切で、裏側との模様あわせはもちろんですが、適度な硬さが保てるよう芯地を重ねて入れています。時間が経つと固くなってしまう熱接着芯ではなく、コットンに限って使用。ボタンはマザー・オブ・パール。ステッチはとても細かく、規則正しく。1cmに6つの縫い目が、シャルヴェの標準なんですよ」。

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シャルヴェのデリバリー・スタッフ(1910年頃)Photo © Charvet

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ストライプ地のシャツでは、前立てと本体、襟と背中上部のヨークの完璧な柄合わせが顕著。Photo © Charvet

 

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現アドレス、ヴァンドーム広場28番地に移ったのは1982年。18世紀初頭のクラシックでエレガントな建築は角地にあるため、両側からディスプレイが楽しめる。Photo © Charvet

シャルヴェの真髄は、オーダーメイドのシャツ

日本ではドロワーが数年前から別注のシャツを扱っているが、シャルヴェは世界に店舗を広げることはせず、カタログも作らない。公式サイトは住所とコンタクトを記載したホームページのみで、インスタグラム投稿もごく稀。昔ながらのやり方で、対応できる数だけを作り続け、サービスと製品のクオリティを守り抜いている。そんなシャルヴェについて、もっと知りたい! そこで、アンヌ=マリーに全フロアを案内してもらった。

まず0階は、子供用シャツや室内着、そしてプレタポルテのシャツ数型と小物一連を取り揃えている。色、品揃え共に、多種多彩なディスプレイだ。小物はネクタイからアスコットタイ、リボンタイ、スカーフ、ポケットチーフと言ったシルク小物、モスリンのストールまで。カシミア/シルク混のソックスやスエードのスリッパも、豊富なカラーパレットで。さらに上のフロアを見たければ、右奥のキャッシャーで希望のコーナーを伝え、案内を待つ。

ウィメンズのプレタポルテを試着するなら、1階へ直行。シャルヴェのウィメンズは、あくまでメンズのシャープなラインを基本としつつ、脇下にまち布を加えるなど、女性の体に合うよう調整したモデル(€480〜)。シャツの裾を引き伸ばしたデザインは、元来スリープウェアだが、ドレスとしても着られる(€635〜)。

唯一アポイントメントを必要とするフロアは、2階のシュールムジュール(sur mesure=オーダーメイド)。シャルヴェの真髄が息づくところだ。顧客のオーダー歴がわかる生地サンプル付き台帳がぎっしりとつまった木づくりの棚や、作業に専念する熟練職人たちを片目に、個室へ。約1時間半ほどかけて、腕、手首、首周りを含む上半身約30箇所もの採寸が、厳かに行われる。生地の選択に当たっては、体型から好み、用途まで、すべてを鑑みた細やかなアドバイスを享受できる。

そしてパーツの選択。既存の襟だけでも全体の形、硬さ、高さ、長さから先端の角度と丸みなどを違えた100余の種類があり、さらに希望に応じて新しい形を作ることが可能。定番は、左右の開き具合がちょうど良く、ネクタイをしてもしなくても着られるタイプだ。カフスも同様に多数のオファーがあり、カフスボタンか通常のボタンのどちらでも開閉できるタイプは日本のビジネスマンに好まれることから、ジャパニーズ・カフスとの異名をとった。またフォーマルなシャツではプラストロン(プリーツやフリルから成る胸元の飾り)のオプションも提案される。次に職人は型紙を起こし、コットン・ポプリンでサンプルを制作。3週間後のフィッティングの際、必要であれば修正が加えられる。こうして仕上がりまでは、約6週間(€750〜)。手刺しゅうのモノグラム(イニシャル)も加えると8週間。

またサイズが微妙に標準とずれる顧客に提案されるのは、フィッティング無しのドゥミ・ムジュール(demi-mesure)。標準サイズの型紙にレタッチを加える形だ(€645〜)。体のサイズだけではなく、例えば腕時計をつける側のカフスはやや大きに、と言った顧客の習慣に合わせた要望にも柔軟に対応する。

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0階には定番のシャツ数型と、色とりどりのスカーフやタイ、スカーフ、ストールと言った小物がひしめく。Photo © Charvet

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定番のレトロなモチーフのスカーフは40x40cm、シルクツイル。柄のデザインはジャン=クロード・コルバン氏。Photo: Minako Norimatsu

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フォーマル・シャツのセレクション。プラストロン(胸飾り)のフリルやプリーツも、手作業で仕立てられる。Photo © Charvet

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シャルヴェのシャツはいずれも、マザーオブパールのボタンで。Photo © Charvet

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生地と襟やカフスの形の組み合わせは、無限大。Photo: ©️Charvet

ビスポークで自分だけのシャツを。ありとあらゆる可能性

一方3階は、ビスポーク。定番を基準に生地、襟、カフスを好みに合わせて組み合わせる別注だ(€560〜)。ここには、6000を超える生地のストックがひしめいている。白の生地だけでも、100余りの異なるトーンに、織りによる張り感やテクスチャー、厚さのバリエーションをかけると、約500種類。ブルーの無地も、200ほどのチョイスがある。生地はすべてシャルヴェのエクスクルーシブで、最近ではエジプシャンコットンとシーアイランド(西インド諸島)コットンの混紡素材も開発された。

4階には、ニットが。ウイメンズはポロ、タートル、Vネック、クルーネック、カーディガンまで、いずれもベーシックで、特にカシミア/シルク混は極上の肌触り。シャツのインナーとして着るのが定着したハイネックは、シャツと合わせて数色手に入れたい(いずれも€1200前後)。

そして5階でできるのは、スーツのオーダーメイド。3回のフィッティングを経て仕立てられる2ピースや3ピース、コートは、いずれもがっしりしすぎずルーズでもない自然な肩と、エレガントなスタイルが、シャルヴェ流だ。壁のそこここに見られるように、20世紀のイラストレーションや、50〜60年代アメリカの俳優の写真がインスピレーション。ウール、カシミア、シルク/麻混、スコットランドからのツイードを含め、生地のチョイスは約4500。またここでは、ダンディなガウンの一連が目を引く。共布のはじを解いてフリンジにしたベルトは、単品でも使えそうだ。1929年には、ロシア・バレエ団の演目「ミューズを率いるアポロ」で衣装を担当したガブリエル シャネルが、チュニックの腰まわりを支える帯ベルトに、シャルヴェのネクタイをしたというエピソードを思い出した。

Charvet
28, place Vendome 75001 Paris
tel 01 42 60 30 70

 

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白の生地のバリエーションも、シャルヴェならでは。色の濃淡や彩度と織り方の違いによる張り感、厚みを鑑みると200以上にのぼる。Photo © Charvet

 

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極上のエジプシャンコットンで仕立てられた、シャルヴェの白のシャツ。Photo © Charvet

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襟のバリエーション。展示以外も含めると、100余の選択肢が。Photo © Charvet

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カフスのバリエーション。パスモントリーのカフスボタンもオリジナル。Photo: Minako Norimatsu

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生地は小さくカットしたスワッチではなく反で見られるので、完成品がイメージしやすい。Photo © Charvet

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リボンタイのディスプレイ。Photo: Minako Norimatsu

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5階、スーツのフロアにある、ダンディなガウンと共布ベルト。Phot: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/