昨年のデザイナー交代劇を踏まえ、今年は真のファッション・リセット年と言われている。2〜3月のウィメンズのファッション・マンスに先駆けて、1月後半にはメンズの‘26FWファッションウィークが開かれた。パリから、まずは2大メゾンを紹介する。

’26FWメンズコレクション、まずはルイ・ヴィトンとディオールから

昨年のデザイナー交代劇を踏まえ、今年は真のファッション・リセット年と言われている。2〜3月のウィメンズのファッション・マンスに先駆けて、1月後半にはメンズの‘26FWファッションウィークが開かれた。パリから、まずは2大メゾンを紹介する。

『ルイ・ヴィトン』ファレル・ウィリアムスが会場セットの家をデザイン。

2023年6月(2024年春夏コレクション)のデビュー以来、ルイ・ヴィトンでのメインコレクションは6回目を数える、ファレル・ウィリアムス。メゾンのコードに捻りを加えつつ、メンズウェアのエッセンシャルアイテムを切磋琢磨するスタイルは確立されてきたが、彼はそこでは終わらない。今回はアーキテクトとインテリア・デザイナーとしての才能を見せてくれた。ルイ・ヴィトン財団の敷地内に設置された仮設会場は、外から見ると巨大な木のコンテイナー。一歩中に足を踏み入れるとそこには草木が敷き詰められた“庭”に囲まれた、一面ガラスの家が出現した。平原に佇むモダニスト・ヴィラと言った風貌だ。

ファレルとNIGO®︎がクリエイティブ・アドヴァイザーを務めるNot A Hotelとのコラボレーションによって実現したこの家を、ファレルは“ドロップハウス”と命名した。ドロップとは、水滴のこと。ヴァージニア・ビーチに生まれた彼が、水に親しんで育ったことに由来する。バスルーム、クロゼット、ダイニング、リビング、そして元来はミュージシャンのファレルらしくリスニング・ルームから成るこの家は、ガラスの四つの角が湾曲して、水の張力を思わせる。家具と家の枠組みは四角の丸みを除いてはシャープなラインで、全体的に曲線と直線の融合が絶妙な塩梅。素材は木とレザーが主体で、リスニングルームに据えたソファーのグリーンと共に、カラーパレットはコレクションに呼応する。

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コンテイナーに見立てた、特設会場の外観。Photo; Minako Norimatsu

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ファレルがデザインしたドロップハウス。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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リスニング・ルーム。グリーンのソファはファレルが選んだアイコニックなデザイン。アルバムカバー風のディスプレイも、コレクションのカラーパレットにマッチ。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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フィナーレでのファレル。ファッションウィーク中に数々のショーに参列した際も、よくこのクロコダイルのブルゾンを着用していた。彼が着用しているスニーカーは、自慢の新作。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

ファレルはこのドロップハウスで単にマルチ・アーティストのネクスト・ステップとしてインテリア・デザインに乗り出したわけでなく、タイムレスなデザインによって未来を“築く“と言う考えを形にした。また機能性、クラフツマンシップ、モダンさ、と言う点で自身の家のデザインとファッションにおけるヴィジョンをつなげたのだ。


ショーが始まるとモデルたちはまずはドロップハウスの中を通り抜け、レコードをプレイヤーにかけたり服やバッグを手にしてから、庭を囲む形で設置されたランウェイに登場した。肝心のルックの数々は、クラシックでシック。テーラードの技術を駆使したスーツやダブルブレストのブレザー、トレンチコートと言ったエッセンシャル・ピースにはテクニカル素材を使ったスポーティなブルゾンやファー、エキゾチックレザーのアイテムを交錯させ、洗練されたスタイリング。ファレルは見た目の面白さより、真に美しく、長く愛せる服のデザインにフォーカスし、遊び感は水滴をイメージした刺繍と言ったディテールや、蛍光糸を編み込んだニットなど、素材で取り入れた。

また今年はモノグラムが130周年を迎えるとあり、このショーではリバーシブル、撥水、蛍光から、濡れると浮かび上がるモノグラムまで、革新的なモノグラムのバッグも発表された。

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ステンカラーのコートも、ウエストのドローストリングと袖口のギャザーで、単なるクラシックを越えたデザイン。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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ハイネックのインナーとタイ、シャツは今最もホットなコーディネート。シャイニーなアウターを合わせるのがミソ。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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長いベルトを首元で巻くディテールは、複数のアウターに取り入れられた。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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水滴風にクリスタルを配したブルゾン。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

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完璧なピーコートは、グレー〜黒の濃淡のコーディネートで。Photo: Couretesy of Louis Vuitton

130周年を迎え、進化するモノグラム。ショー翌日の展示会では、革新的なバッグの数々が披露された。video: Minako Norimatsu

『ディオール』ジョナサン・アンダーソンはアールデコ時代のクチュリエに注目

昨年6月、ディオールでの初めてのコレクションではメゾンのコードを徹底的に再解釈し、バージャケットやクチュールのドレスをもメンズウェアに落とし込んでデザイナーとしての実力を証明した、ジョナサン・アンダーソン。2回目のショーが期待されていた中、ショーの前日にはSNSで公開されたティザーにより、色々な憶測が飛び交った。動画ではパリの街を走る男性が歩をとめると、道路に刻まれたポール・ポワレの記念碑にズームイン。続いてディオールの看板と住所が映し出され、記念碑がディオール本社の前にあることが示唆されている。20世紀前半にパリ・オートクチュールを確立し、モードにおけるアールデコ・スタイルの先駆者とも言われるポワレは、ムッシュ ディオールと直接は関係がなかった。しかし、両者のメゾンがすぐ近くだったという偶然に注目し、しかもウィメンズではなくメンズのコレクションの着想源としたところに、ジョナサンの非凡さが表れている。

新進気鋭なカメラマン、Jessica Madavoによるティザー。

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フィナーレ。手前がゲストたちを驚かせたファーストルック。Photo: Adrien Dirand

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フィナーレ。ニットのチュニックに合わせたのは、インビテーションにもなったプリーツのつけ襟。Photo: Adrien Diranc

ポワレが流れるようなラインで当時の女性たちをコルセットから解放しただけでなく、自らグラマラスなライフスタイルを好んで頻繁にドレスアップや仮装のパーティを開いていたことは、昨年夏にパリ装飾芸術美術館で開かれた回顧展でも、クローズアップされていた。この点も少なからず、ジョナサンを刺激しただろう。そこで彼が描いた男性像が、“アリスト・ユース”とでも言うべく、リッチで気高い若者たち。ポワレからのダイレクトなインスピレーションはアールデコ風のトップ、チュニック、そして華美な模様のジャカードやコートのラペルに縫いつけたケープ、誇張された大きさのカフなどドラマチックな生地やディテールに取り入れた。

相反する要素のミックスを得意とするジョナサンが取り入れたのは、シンプルなポロシャツやミリタリーコート、モーニング、テイラードスーツなど。もちろんバージャケットもさまざまに変化を遂げたほか、メゾンを象徴するメダリヨンは楕円形のバックルとしてベルトに。そしてなんと言ってもショーにロックなタッチを与えたのは、イエローのウィッグと、エディ・スリマンの時代のスキニージーンズだ。またもや世界を驚かせたジョナサン。次はどんなアイディアを展開するのだろう。

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ファーストシーズンと同じく、小さめに仕立てたバージャケット。素材にはムッシュ ディオールが愛した千鳥格子を使いつつ、切りっぱなしのヘムで遊び感を。Photo: Courtesy of Dior

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レトロなカラーツイードは、今シーズンのトレンド。バッグも同じトーンで。Photo: Courtesy of Dior

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クリスタルの刺しゅうとフリンジの肩章をあしらったポロシャツやセーターは、今シーズンのステートメント・ピース。Photo: Courtesy of Dior

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カナージュ風の刺繍が施されたツイードのメッセンジャーバッグも、今シーズンの注目アクセサリーの一つ。Photo: Minako Norimatsu

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アイコニックなアクセサリーは、プリーツのつけ襟。16世紀にエリザベス女王1世がつけていたことから、エリザベス・カラーと呼ばれる。首元が詰まったジャケットの中にきちっとしまうのではなく、スカーフのようにゆるく巻くのがモダン。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/