1月後半にパリで開かれたメンズのファッションウィークで見たのは、既にトレンドとなっているアイテム、ネクタイがさまざまに形を変えて展開されていたこと。老舗メゾンと若手ブランドからは、数々のニュースも。

進化するネクタイ使いが目立った、26-27FWメンズとプレフォール

1月後半にパリで開かれたメンズのファッションウィークで見たのは、既にトレンドとなっているアイテム、ネクタイがさまざまに形を変えて展開されていたこと。老舗メゾンと若手ブランドからは、数々のニュースも。

【DRIES VAN NOTEN(ドリス ヴァン ノッテン)】 大人としての旅立ちに贈る、ミックス&マッチ

今シーズンのベスト・コレクションの一つに数えられた、ドリス ヴァン ノッテン。ジュリアン・クロスナーがクリエイティブ・ディレクターとなって、メンズの秋冬シーズンでは初めてのコレクションだ。彼が創始者から受け継いだD N Aが、ノスタルジックな編み込みまたは模様編みニットと色や柄のレイヤー、そしてテーラード・ピースに十二分に発揮された。本コレクションのストーリーは、大人になること、学業を終えた若者たちが社会人として故郷を離れ希望を持って別の地に向かう、新たな出発。ショーでは終始、浅川マキの1969年のヒット曲「夜が明けたら」が流れた。

スクールユニフォーム、ロングペンシルコート、子供の頃着ていた小さすぎるニット、父からもらったコート、そして長年愛用しているスカーフ、ネクタイ。主役のパーソナリティやシーンが明確だから、捨てきれないもの全てを身につけてしまったかのようなルックは、いずれも微妙な塩梅の組み合わせ。誰にも真似できないパーソナルなディレクションが、高く評価された。

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ドリス ヴァンノッテンのショーではいつも、フィナーレでモデルたちが全員集合してくれる。中央のルーズに結んだネクタイとキルトの組み合わせは、キールックの一つ。Photo:  JOUBERT ZOE

ショーのプレイリストは、浅川マキの「夜が明けたら」(1969年)一曲のみ。”夜が明けたら 一番早い汽車に乗るから 切符を用意してちょうだい 私のために 一枚でいいからさ 今夜でこの街とはさよならね…“

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小紋柄にも似た花柄のシャツとミスマッチなストライプのネクタイは、わざと裏側を見せて。ボクサーショーツがウエストからはみ出したかのようなパンツでは、小花柄と黒の無地を一体化。Photo: GoRunway 

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ネクタイのペイズリーと裏の細かいドット、それにコートの裏地の柄、さらにワイドな襟のシャツと極細のベルト。柄、ボリュームともに絶妙なバランスだ。Photo: GoRunway 

【SAINT LAURENT(サンローラン)】のリラックス・テイラード、【HERMÈS(エルメス)】 の節目

アンソニー・ヴァカレロによるサンローランはいつもの張り詰めた雰囲気とは方向性を変え、ソフトなシルエットで抜け感のある新しいフォーマルを提示した。計算された上でのリラックススタイルは、まるで朝から夜までの様々なシーンで急いでドレスアップしたかのようだ。だから一見スーツに見えるピンストライプの上下も、微妙に色や素材が異なる。サルトリアルなシルエットや素材を主体としたコレクションは、くりの深いUネックセーターやサイハイブーツを合わせ、センシュアルに展開された。前回同様、ネクタイはシャツのボタンとボタンの間に入れ込む他、アスコットタイやスカーフとネクタイのダブル使いも多用され、メンズウェアのスタイリングの新しい可能性が示された。

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シャツにボクサーショーツという、パジャマを想起させるスタイル。その上にはチェスターフィールドコート、というミックス・コーディネートが、このコレクションのエスプリを体現している。Photo: Courtesy of Saint Laurent

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黒やダークグレーを主としたコレクションで唯一の差し色が、このサフランイエロー。深いUネックにアスコットタイがセンシュアル。Photo: Courtesy of Saint Laurent

一方今回のエルメスのショーには、特別な意味があった。メンズウェア部門のアーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンが38年間にもわたる務めを終え、退任したのだ。ただし本質を重んじるエルメスだから、会場のブルス(旧証券取引所)の天井から幾つものLEDスクリーンが掲げられた以外、劇的な演出はない。いつも通り、モダン・クラシックで実用的、そしてコンフォタブルなエッセンシャルアイテムは、カーフスキンやシルクをはじめとする最高級の素材、ステッチで表現したピンストライプなど趣向を凝らしたディテール、テクニカルサテンを使ったモダンなアプローチで、昇華。ピーチカラーのシアリングやミラークロコダイルなど、大胆な色、素材はアップビートなタッチを添えた。また中には、過去のコレクションからレザーのジャンプスーツをはじめとするヴェロニクお気に入り9ルックのアップデート版も組み込まれた。

フィナーレになるとスクリーンには過去のショーのフィナーレでのヴェロニクが映し出され、スタンディング・オヴェーション。アフターパーティでは彼女が大好きだと言うポール・ウェラーがライブを披露し、会場は一晩中熱気に包まれた。ちなみに後継者、グレース・ウェールズ・ボナーによる初コレクションは約1年後、来年1月に発表される。エルメスらしく、時間を贅沢に使ってクリエイターに余裕を与えるやり方だ。

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エルメスのファーストルックでは、ネクタイがシャツ・オン・シャツのコーディネートにエッジを与えている。異素材を合わせて黒の濃淡を遊んで。Photo: ©Filippo Fior

LEDスクリーン映し出されたのは、過去の数々のショーのフィナーレで挨拶をする、ヴェロニクの姿。

日本勢も、ネクタイ三人三様。【SOSHIOTSUKI(ソウシ オオツキ)】,【Auralee(オーラリー)】,【Sacai(サカイ)】

去る6月にはLVMH賞を獲得し、秋にはザラとのコラボレーションを発表、と一躍世界的に注目を浴びるブランドとなった、大月荘士によるSOSHIOTSUKI。26-27FWはフィレンツェPitti Immagine Uomo 109でのゲストデザイナーとして初めてショー形式で発表して大好評を博し、パリの展示会にもプレス陣が駆けつけた。ジョルジョ・アルマーニを尊敬し、1980年代のテーラードスーツを出発点としつつ、日本のサラリーマンルックにも着眼する大月。彼のクリエイションは今回、ディテールや素材の使い方を模索することで、独創性を増した。例えば熱加工でカールさせた襟先、バイアスカットで仕立てたオックスフォード地のシャツなど。アップサイクルのブランド PROLETA RE ART(プロレタ リ アート)やスペインの職人気質のシャツメーカー CAMISAS MANOLO(カミサス マノロ)とのコラボレーションも、コレクションを豊かにした。

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ピッティ・ウオモで開かれたショーのバックスレージより。クロップド・ニットとネクタイ、そして誇張されたタックのワイドパンツのバランスが絶妙。Photo:  Courtesy of SOSHIOTSUKI

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見返しを引き出してドレーピングし、ネクタイが一体化したようなシャツは、大月のシグネチャー。ジャケットには太畝のコーデュロイを選んだ。Photo:  Courtesy of SOSHIOTSUKI

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シャツとネクタイにジャンプスーツというルックから、大月が好きな映画としてアメリカの自動車工場を舞台としたガン・ホー(Gung Ho 1986年、日本劇場未公開)を挙げていたことを思い出した。Photo:  Courtesy of SOSHIOTSUKI

オーラリーは素材へのこだわりと独特な色使いで、フランスでも人気が高い。デザイナーの岩井良太は今回、どんよりとした冬の空気の中に仄かな光や和み感を見出し、軽やかさをもたらした。結果として生まれたアイコニックなアイテムは、ふわりとしたレザーのブルゾン型ダウン。ネップツイードやカシミアにはシアな素材が交錯し、ベージュとブルーのバリエーションには差し色で赤やグリーン、エッグイエローが添えられた。

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緩く結んだ今風のネクタイ使いは、スカイブルーと言う意外な色で。ワークウェア風のアウターと色褪せたボトムとの合わせが心憎い。Photo: Courtesy of Auralee

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淡いブルーとミントグリーン、そして霜降りグレーの合わせがオーラリーらしいルック。またややローウエストのボトムは、トレンドを牽引する。Photo: Courtesy of Auralee

一方サカイは、メンズの2026-2027FWとウィメンズの2026プレフォールを混在させたショーで、従来の反骨精神をさらに明確に打ち出した。得意とする“ハイブリッド”、つまり服の構造を解体・再構築して生み出す“破壊の美”だ。そのためか、会場となったカロー・デュ・トンプルを二つに仕切った壁には、まるでハンマーで壊したかのような大きな穴が開けられ、モデルたちはここを通り抜けてウォーキング。今回デザイナーの阿部千登勢を触発したのは、プロボクサーで人権・反戦活動家だったモハメド・アリの、パンチだとか。折しも、ショーが開かれた1月23日は、非人道的な移民取り締まりに対する大規模な抗議がアメリカで始まったばかり。アリへの言及はこの社会情勢と直接は関係がないだろうが、偶然とは言え時代の精神性を先読みするのも、デザイナーの力量だ。ちなみにサカイは来る3月のFWではショーを開かないことを告知したばかり。今後のプレゼンテーションのあり方を検討中とか。とはいえ、コレクション自体はオンラインで発表される予定。

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“破壊の美”は、二分化されたテーラード・ジャケットでも、顕著。スカーフをネクタイ風に、わざとシャツの台襟から外して緩く結んだ。Photo: Courtesy of Sacai

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トーマス・へプカーが撮影したモハメド・アリの“パンチ”をプリントしたシャツは、ステイトメント・ピース。Photo: Courtesy of Sacai

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/