ハイライト、トレンド、若手、と3回に渡ってお届けした、2026FWパリファッションウイーク・レポート。番外編では期間中に話題となったイベントを紹介します。

2026FWパリファッションウィーク、番外編

ハイライト、トレンド、若手、と3回に渡ってお届けした、2026FWパリファッションウイーク・レポート。番外編では期間中に話題となったイベントを紹介します。

パリの新しいランドマーク【クリステン】

ヴァンドーム広場近く、ジュエラーが立ち並ぶラペ通り。年明けからは1番地にエッジーな靴を履いた巨大な靴の写真を貼った囲いが現れ、行き交う人々の好奇心を誘っていた。その全貌が顕になったのは、ファッションウィーク中盤。シューズ・ショップ『クリステン』が遂にオープンしたのだ。デザイナーのニナ・クリステンはパリ在住のスイス人。これまでフィービー・ファイロのセリーヌ、ダニエル・リーのボッテガ・ヴェネタ、ザ・ロウ、そしてジョナサン・アンダーソンのために靴をデザインし、現在ではディオールで靴のディレクションを務めている。コンテンポラリーかつ遊びがあり、大胆な彼女のデザイン・アプローチを、少しの妥協もせずに表現したのが、昨年ローンチした自身のコレクションだ。「ファッションよりも建築やデザインに興味があるの。オブセッションとも言えるくらい」と言う彼女がアーティスト、アザデ・シャラドフスキー(Azadeh Shladovsky)と共に構想した内装は、なんともラディカル。がらんとしたスペースは工事中かと見まごうような、コンクリートのラフな作りだが、ノーブルな建物が立ち並ぶエリアだけに元々あったアーチは残した。それと対照的なのは、中央に据えられた、円形のスカルプチャー。まるで水が枯れた噴水と思いきや、円を描く縁はベンチの役割を成す。シューズショップにありがちな装飾的な棚は一切なく、靴は全て床に並ぶ。奥にある鉄棒にはまだ何もかかっていないが、近い将来は彼女のデザインによるウェアが届くとか。さらにジュエリーの入荷も予定されているから、ニナの世界観をもっと多面的に見られる日も近い。

Christen
1, rue de la Paix 75001 Paris

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贅沢にスペースを使った、クリステン。鏡に写った中央の円形スカルプチャーの縁は、顧客が靴をトライする際に座れるスペース。 Photo: Bilal El Kadh

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一切の装飾を取り払いつつ、元来あった3つのアーチは残したクリステンの店内。 Photo: Bilal El Kadh

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クリステンのベストセラーは、バイカラーのタビシューズ。 Photo: Minako Norimatsu

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ラジカルな、クリステンのキャンペーンイメージ。Photo: Bilal El Kadh

哲学的なパフォーマンス、「生きたモード美術館」

ショーでは、コレクションはもとよりスケールの大きな会場セットやセレブの来場が刹那的に、ネットユーザーも含め見る者たちの熱気を煽る。一方、ファッションウィーク中にひっそりと幕を開け、参加者たちの記憶に刻まれたのは、Musée Vivant De La Mode(生きたモード美術館)。モードにおける唯一無二の哲学者そして詩人、オリヴィエ・サイヤールによるパフォーマンスの一連だ。これまで服飾美術館やメゾンの展覧会でキュレーションを手がけ、本を執筆し、現在はJ.M.ウエストンのアーティスティック・ディレクターを続けながらアライア財団のディレクターを務めるオリヴィエ。彼はパーソナル・プロジェクトとして「モデルも服もないショー」を皮切りに、20 年前からコンセプチュアルなコレクションやパフォーマンスを発表してきた。昨年は亡き母へのオマージュとして遺品の服をクチュールの域の作品に昇華させたコレクション「モード・ポヴェラ」で、観る者に感動を与えた。

今回ファッションウィーク中の3月6日に始まり、21日まで連日開かれたのは、20年間の生きた作品をアップデート、編集したパフォーマンス。会場は昨秋に引っ越し再オープンを遂げた、カルティエ現代美術財団だ。最初の2日間は、長年のコラボレーターであるアクセル・ドゥエやかつてはマルタン・マルジェラのミューズで現在はアーティストのクリスティーナ・デコニンクら往年のモデルたちが、トワルに貼り付けて平面化した一連の服を披露。横ではやはり元トップモデルのヴィオレッタ・サンチェスが服を説明するテキストを読み上げた。また期間中2日間は、1971年春夏のイヴ・サンローランのオートクチュール・コレクションについて。1940年代のヴィンテージをワードローブの中心としたパロマ・ピカソのスタイルを着想源とし、戦後のルックをクチュールに取り入れたことから“スキャンダル”と批判されたコレクション。これをデザイン画とテキストの両方で振り返るコンフェレンス形式のパフォーマンスのゲストは、他でもないパロマ・ピカソだった。また最終日の2日間はコンセプト自体ティルダ・スウィントンとのコラボレーション。彼女自身がハンガーからマネキンと言った服を飾るための台座との“対話”をする「沈黙のマヌカン」が披露された。服の背後にあるストーリーやそこに潜む感情や詩情を探ったパフォーマンスは、多くの人たちに服愛について改めて考える機会を与えただろう。この機に、オリヴィエが書いたテキストが小さな本(英仏語 Musée Vivant De La Mode/ The Living Museum of Fashion)として出版された。

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「モードの生きた美術館」のテキストを収めた小さな本は、10€。カルティエ現代美術財団のe-shopにて。

オリヴィエがMusée Vivant De La Modeの開催が始まる間に公開した予告編。

ティルダ・スウィントンとのパフォーマンス動画を撮影したのは、オリヴィエのパーソナルプロジェクトを長年サポートするPR、ナタリー・ウース。

ファッションウイークだからこそインテリア。「マター&シェイプ」

メゾン&オブジェをはじめ、インテリア関係のサロン(合同展示会)やプレゼンテーションは、普通デザインウィーク中に開かれる。その公式を覆したのが、フーズネクストやプルミエールクラスと言ったアパレルのサロンを主催する企業、WSN。ファッションとライフスタイルがますますクロスオーバーするようになったことに目をつけ、スタイリッシュなデザイン・ブランドを厳選してのサロン「マター&シェイプ」(MATTER & SHAPE)をあえてファッションウィーク中に、と言う大胆な企画に乗り切ったのだ。2024年のローンチにあたって起用したのは、ファッションやアートのジャーナリスト、ダン・ソーリー。彼のネットワークも功を奏して、そのキュレーションはコンセプトストアのバイヤーたちも集めるようになり、2回目からはテントが二つに増えた。3回目となった今回、日本からは由緒ある織物店HOSOOやコンテンポラリー・ジュエリーのシハラが参加。セリーヌのショー会場を演出したカスタムメイドのスピーカーで注目されたマテオ・ガルシア(詳しくは、来月の記事)のブースも、行き交う人々の足を止めた。奥には、気の利いた小物や本を集めたブティックや、ブランドのイベントでの創作フードのケータリングやプライベートディナーで、知る人ぞ知るバルボステの期間限定レストランが。また今回は特別に、フレグランスのコーナーも設けられた。マター&シェイプのサロン自体は1年に一度だが、次回を待ちつつ公式サイトやインスタグラムアカウントで出展ブランドをリサーチすれば、デザイン通になれること間違いない。

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ロンドンのジュエリーデザイナー、アナ・ジュスベリーよるコンプリーティッドワークス(Completedworks)は、オブジェや家具、グラスウエアとセラミックでマター&シェイプの初参加。Photo:Minako Norimatsu

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20世紀アートを代表する彫刻家、ジャン・アルプの作品を管理・展示するアルプ財団ではオリジナルのオブジェもデザインしている。ついたては、アートディレクターからステンドグラス・デザイナーに転向したソフィー・トポルコフ(Sophie Toporkoff)とのコラボレーション。Photo: Minako Norimatsu

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マター&シェイプでのフレグランスコーナーにて、最近京都にもアトリエを開いた調香師でアーティスト、バーナベ・フィリオンによるアルパスタジオ(Arpa Studios)のブース。 Photo:  Minako Norimatsu

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マター&シェイプの常連、オーストリアのクリスタルメーカー、ロブメイヤーは、映画監督ルカ・グァダニーノとのコラボレーションを発表。 Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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