マチュー・ブレイジーやアンソニー・ヴァカレロら著名デザイナーを多く輩出しているブリュッセルのアートスクール、「ラ・カンブル・モード」。設立40周年を記念するイベントでは修士課程の生徒たちのレベルが高いばかりか、同窓生たちが審査員として集まり、ヒエラルキーもバリアもない1日が展開された。
マチュー・ブレイジーやアンソニー・ヴァカレロら著名デザイナーを多く輩出しているブリュッセルのアートスクール、「ラ・カンブル・モード」。設立40周年を記念するイベントでは修士課程の生徒たちのレベルが高いばかりか、同窓生たちが審査員として集まり、ヒエラルキーもバリアもない1日が展開された。
ラ・カンブル・モード40周年イベントに、著名デザイナーたちが大集合
6月は欧米では年度末、つまり卒業式の季節。ファッションスクールでは修士課程の生徒たちの発表会も相次ぐ。中でも今年注目を集めたのは、ブリュッセルのベルギー国立ラ・カンブル視覚芸術高等専門学校モード部門(以下、略して“ラ・カンブル・モード”)の設立40周年記念を兼ねた「Showoff26」。この機にまず読み返して欲しいのが、本誌5月号に掲載された5ページのルポ「ラ・カンブル・モードの教え」だ。名門校の卒業生たちの情報は、企業やヘッドハンターたちにとって、デザインチームづくりのための貴重な資料となる。加えて最近では、インサイダー情報を投稿するSNSアカウントからの興味も高まっている。こんな事情から、名門校ディレクターの教育コンセプトを伝える記事は多く発信されているが、実際のカリキュラムは意外と語られていない。その盲点を突き、本誌の記事では、ラ・カンブル モードを率いるトニー・デルカンプ(Tony Delcampe)の言葉と共に、各学年が学ぶことやその目的を詳しく伝えている。
取材をしたのは2月初旬で、マスター(修士課程)の生徒たちは卒業制作を準備中だった。作業を自宅で続行中の生徒も多かったものの、たまたま教室で会えたのが、マスター2年生の二人だ。一人は“空間の使い方”に興味を持ち、建築、内装、そして社会派のアーティスト、ゴードン・マッタ・クラークについてのリサーチを重ねた、テオドラ(Théodora-Hadj Moussa Laublé)。そしてシャルル・ルドレーからヨーゼフ・ボイスまで、服を題材としたアーティストの考え方を着想源とした、マリー(Marie-Scerri)。未完成だった彼女たちの作品の数々が、12体からなる実際のコレクションとして発表されたのを見るのは、とても感慨深かった。また全体を通じて感じたのは、ラ・カンブル・モードの生徒たちのリファレンスは、服に直接結びつく時代や人物ではなく、アートに根付いていること。しかも単なるアート作品の再解釈よりも奥深く、彼らにはアーティストのコンセプトを理解しようという姿勢が読み取れる。また記事でも伝えている1年生の課題(布を使って直接ボリュームを探求すること、そして日常的オブジェを服に落とし込むというエクササイズ)の成果も顕著だった。
マチュー・ブレイジーやアンソニー・ヴァカレロ、ジュリアン・クロスナーらが学んだラ・カンブル・モードの教室は、こんなそっけない建物の一角にある。(シュプール2026年5月号「ラ・カンブル モードの教え」より)Photo: Alfredo Piola
「ラ・カンブル・モードの教え」でも紹介した、Théodora-Hadj Moussa Laubléのルック。Photo: ©CatwalkPictures
同じくThéodora-Hadj Moussa Laubléのルック。Photo: ©CatwalkPictures
テオドラのリサーチブックより。前述のドレスの着想源となった、ウッドフローリング。Photo: Minako Norimatsu
同じくMarie Scerriのルック。異素材の組み合わせと、ハーモニーとアンバランスのギリギリの線を行く構築性で、評価が高かった。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちから、もう一人評価が高かったのは、飛び出す絵本にインスパイアされてボリューム感を思い切り遊んだ、Lalou Weyrich。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちから、Alexandre Piron。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちから、Manon Schied。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちから、Fantin Delatre。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちから、Loïc Bernier。Photo: ©CatwalkPictures
マスター2の生徒たちからAdrien van Nuffel D'Heynsbroeck。Photo: ©CatwalkPictures
先生たちにとって、同窓生や生徒たちは、かけがいのないファミリー
卒業生たちの作品のクオリティの高さはもちろんだが、何よりも「ShowOff26」を特別な機会としたのは、審査員団の面々だ。マチュー・ブレイジーからジュリアン・クロスナーまで、超多忙なはずのラ・カンブル・モード出身デザイナーたちは、この日のためにスケジュールをやりくりして集まった。彼らはまずは、各10体を発表するマスター1の3人と、各12体を完成させたマスター2の8人のショーを見学。そして合同ショールーム形式で開かれた審査会では紙とペンを片手に各スタンドを回り、リサーチブックを見たり生徒と話したりして、採点。点数は公表されないが、各生徒たちの学歴に記される。夜は生徒たちによる手作りのフォトコール・スポットでの撮影会と、カジュアルなカクテルディナー。デザイナーたちが口を揃えて言ったのは、この学校には家族的な雰囲気があり、戻って来て同窓生の面々や先生たちと再会するのをとても楽しみにしていたこと。彼らにとっては、いわば同窓会だったのだ。
またジャーナリストやバイヤー、その他学校と親交があるファッション関係者たちから成るゲスト陣に前もって送られたメッセージは、“パパラッチや不適切なSNS投稿、インタビューは避けるように”。とは言えデザイナーたちはメゾンやグループ間の確執など関係なく和気藹々と談笑する合間にも、気軽にジャーナリストたちと言葉をかわしていた。ショーのバックステージでもガードが固く近づき難い通常の状況など、嘘のように。ヒエラルキーやコミュニケーション・コントロールというバリアがない一日。先生たちにとっても、皆の顔を一堂に見た感激はひとしおだったことだろう。トニーは、彼らが“ファミリー”と呼ぶ卒業生と修士課程の生徒たち一同に向かって「君たちは皆、僕の子供たちだ」と語った。
Showoff26のプログラムより、審査員リスト
手作り感に溢れた「Showoff26」のランウェイ。著名デザイナーたちもジャーナリストなどゲスト陣も、全員がフロントロウ。Photo: Alfredo Piola Couretesy of La Cambre Mode(s)
La Cambre Mode(s)の先生たち。右端がトニー。Photo: Alfredo Piola Couretesy of La Cambre Mode(s)
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/