去る9月8日、エリザベス2世の訃報を受けて揺れに揺れた2023年SSシーズンのロンドン・ファッションウイーク(以下、略してLFW)。一番にショーのキャンセルを発表したのは、イギリス王室御用達ブランド、バーバリーでした。結局はオフカレンダーで9月26日にショーを開催し、その2日後には同メゾンがクリエイティブ・ディレクター交代のニュースを発表したところで完結した感のあるLFWを、ここで一気に振り返ってみました。国中が9月26日までは喪に服すことが決まり、LFWでもパーティやローンチイベントなど不要不急のイベントはすべてキャンセル。一方で、コロナ禍収束後初めてフルで開催されるFWに向けてクリエイションに専念してきたデザイナーたちをサポートするため、ブリティッシュ・ファッション・カウンシルはショーやプレゼンテーションにはゴーサインを出しました。コレクションの発表自体はB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)、つまりデザイナーとメディア&バイヤー間の、仕事上欠かせないイベントであるという解釈で。ただし、葬儀が行われた9月19日に予定されていたショーはすべて日程見直しが必要となりました。翌20日の夜にスケジュールを移行し、LFWの終幕を飾ることになったのが、リチャード・クインです。2018年に、若い才能を支援しようと発足した「エリザベス2世デザイン賞」の初の受賞者となり、同年9月のショーでは女王をフロントロウに迎える栄誉にあずかった、若きリチャード。彼にとって、エリザベス2世は特別な意味を持っていたのです。
9月20日夜、会場に入ると、カーペットからカーテンまで、そこは黒一色。ゲスト用の黒の椅子にはショーノートと共に赤いバラ。ランウェイの中央には、巨大な球型のオブジェに、無数のスポットライトに混じっていくつかのスクリーンが設置されています。そこに投影されたのは、若い頃から戴冠式、そして愛犬たちとの和やかなひと時まで、崇高な女王、一方で親しみやすい女王の姿。そしてショーの第一部には、20あまりの黒のルックが。夜会服風のドレス、テーラードコート、カクテルドレスなど、エリザベス2世のワードローブからインスパイアされた、手の込んだルックが続きます。頭に被ったスカーフから大ぶりの帽子、ブローチまで、小物もロイヤル・テイスト。いずれも黒のヴェールをかぶり、いくつかのルックではヴェールの内側に王冠が見え隠れしています。喪のパートが終わると、第二部は打って変わってカラフルで、リチャードが得意とする花柄やポルカドットのクレッシェンド。花はプリントから総刺繍、立体モチーフと、様々な形で解釈されました。彼のシグネチャーである肩と上半身を誇張したシルエット、極度なAラインは、手仕事を極めたクチュール・ドレスをコンテンポラリーな域に高めています。最後は昔ながらのクチュール・メゾンにならって、マリエで終幕。フィナーレでは紙吹雪が、黒からまるで万華鏡のようなカラーパレット、そして白への流れをドラマチックに演出しました。こうして、リチャード・クインによる個人的な思いが込められた、エリザベス2世への美しいオマージュで、LFWは幕を閉じたのでした。
Text: Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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