タモさんとキンキンがW主演した幻の映画がある、というのは聞いたことがあったのですがやっとこの週末、観ることができました。
喜劇作品で知られる瀬川昌治監督の「喜劇役者たち 九八とゲイブル」(1978年)、「くーぱーとげいぶる」と読みます。タモさん演じる謎の芸人が「苦楽芸振(くらーく・げいぶる)」、ひょんなことから彼とコンビを組む愛川欽也さんの芸名が「芸利九八(げいりー・くーぱー)」。人間がふたり寄り合えばどうしたって完全に対等で平等な均衡が保たれるわけがなく、芸人コンビの哀愁のようなものが「火花」とも重なってほろりとした場面もありました。「あなた3枚目なのにすっかり喰われてるじゃない」と恋人役の佐藤オリエさんになじられるキンキンの切なさが痛いほど伝わってくるそのわけは、タモさんのネタの破壊力。オリエさんはこうもいうのです、「あなたの相方、宇宙人みたいで気味が悪いわ」とも。
普段は「タモリ」「タモリ2」で耳で聞いている宇宙人級の密室芸の数々が、動くタモさんで改めて観られる喜びは無類。四カ国麻雀に世界の短波放送はもちろん、色鮮やかなアイパッチを付けこなすタモさん、インチキ外国語で寝言を言ってニッコリ笑うタモさん、野坂昭如さんや鶏の物真似をするタモさん。確信犯の一挙手一投足にいちいち「あぁ、もう!!!」と胸がざわつくんです。観ている側、つまり凡人が類まれな才能をもった人を目の前にしたときの動揺とでもいうのでしょうか。黒眼鏡じゃないのに黒く輝く若きタモさんに出会えたこの作品と瀬川監督に、心から感謝しています。本当に、観られてよかった。ラッキーでした。
余談ですが、髪型がアイパーっぽい愛川欽也さんはジェームズ・カーン(ゴッドファーザーのソニー役ですね)、レンズの透けた丸眼鏡の美形のタモさんは「フルメタル・ジャケット」でのマシュー・モディーンに似てました。いろんな意味で自由だった時代の映画なので、普段はなかなか観られることができないこの作品、今週金曜日まで1日1回のみ、神保町シアターで特別上映しています。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。