チョコレートに目がないです。それも濃い目のやつが好きです。カカオの味がちゃんと生きた、誠実でシンプルなダークチョコレートをいつも探しています。今どきの「Bean to Bar」、カカオ豆から板チョコになるまできちんと自分の手で作っている銘柄は、個性が立っているので食べ応えがあります。ダークチョコレートバーを口にするとき、その微差を味わう過程自体が自分の感性を鍛えてくれているような気もしています。
少し前に大好きな画家の藤田理麻さんと久々に会う機会がありました。NYでも美味しいものをいつも紹介してくれる理麻さんは、たいへんなチョコホリックでもあるんです。10年以上前、NYでも開店したばかりのマリベルのホットチョコレート缶をプレゼントしてくれたのも理麻さんでした。その日、今はロスに住んでいる理麻さんがとっておきの銘柄のバーをくださったんです。聞けば「幻のチョコで、どこにも販売されていないの。でも本当に美味しいの!」。名前はパトリック・チョコレート。自らのオンラインで販売するほかは一部の店舗に卸しているようなのですが、すべて手作業で素材を厳選して丁寧に製造しているため、なかなか出会うことができないというじゃないですか。実際、ウェブサイトを覗いてみても、「現在は販売商品無し」の素っ気無い表示。
いただいた70%のシグニチャーブレンドを、ある晩にそっと割って口に入れてみたんです。これが、美味しい。ストレートに美味しい。ほんのすこし柑橘の香りとベリーっぽい風味が鼻に抜けるんですけれど、主役はキレッキレの実直なカカオ。同時に不思議な透明感もあるんです。濃い口なのに、味が澄んでいる。で、最後にナッツっぽいふっとした余韻が舌に残って、消えるんですよ。野球の球に例えるときれいな回転でスーッと手もとで伸びのあるストレートとでもいうんでしょうか。これは誰か友人にもあげなくては!と思っているうちに、いつの間にかひとりで卑しくもすべて完食していたほど。
サンフランシスコの、ごく普通の一軒のニューススタンドの店頭に並ぶことがあるそうです。でもそれも少数であっと言う間になくなるという話。パトリックの上顧客のような存在のサンフランシスコ在住の知人にお願いして、わざわざ入手してくださったそう。そんな貴重な1枚を私なんかに……という感激とともに、改めてあの爽やかで濃厚な味が舌に蘇るのでした。世界中の美味しいものがたくさん手に入る日本ですが、まだまだ幻の味というものがあるものですね。今度会えるのはいつかしら。1年に1回のチョコレートの日を目前に、あの味を心で反芻しています。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。