偶然の波に乗れ

  残業後、後輩と夕飯を食べていたときのことです。ふと話題はワゴンタクシーのことになりました。そうです、あの6人乗りの、乗ったとき「これ、普通料金ですか?」と思わず確認してしまう、ちょっとしたお得感を醸しだしているでっかいタクシー。後輩は翌日の撮影用荷物の搬入のために予約しようとしたそうなのですが、これがタクシー会社に1、2台ほどしかないレア車種だそうで、なかなかに予約が大変だったとのこと。そのわりには私はよくワゴンタクシーを拾って乗る気がする、そして降りる時はなんか妙に大げさで恥ずかしい、みたいな話をした翌日。
  朝イチの取材を終えて建物から出ると、目の前にワゴンタクシーがとまっていました。取材は押し気味で、次へと急いでいたこともあって思わず乗車。

  赤瀬川原平さんの『世の中は偶然に満ちている』には、赤瀬川さんが体験した偶然と、夢の日記がひたすら紹介されています。○○で××にバッタリ会った、みたいな内容が多いのですが、中にはこんなこともあるのか!という、まるで小説のような偶然も。そして、一気に読了して思い浮かんだのが冒頭の私の偶然。

  終章の、『偶然を特異現象と受け取るのは人間の勝手であって、自然はむしろ偶然で満たされている。で、人間のもっている秩序志向のようなものが、秩序の外の出来事を偶然として意識する』という文や『物質というのはある一地点への粒子の偏りのことである』という記述に、はっとしました。偶然はいわば出来事の偏り。まんべんなく均等に整った世界が普通のように思えたけれど、偏っていることが当たり前だったのか、と。そう思うと心がふと軽くなり、もっと自由でいいんだ!という謎の元気がわいてきました……。赤瀬川さんが偶然を「ピカッ、ピカッと光っている」と表現しているのも、なんだか宝物探しみたいでいい。
 それで気がつきました。偶然日記、読んでいて楽しかったけど、自分でもつけたらもっと楽しいんじゃないか?と。 ワゴンタクシーの偶然から、この本をとったのもまた偶然。偶然日記をつけて、このまま偶然の波にのってみようかと思っています。

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エディターASADA

主に美容担当。山登りなど自然に触れることが好き。最近は健康とかインナービューティとかいう言葉にめっぽう弱くなりました。

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