究極のジーンズを探す旅

脚が……魔法みたいに長くみえる……。
ヴェトモンのデニムを初めて試着したときの感想です。それは去年の秋、High and Seekというセレクトショップを訪れたときのこと。ヴェトモンのアーティザナル・ジーンズが流行っていることは知ってはいたけれど、なんせそれまで28年間デニムに興味がなかったため、完全にスルーしていました。
デニム、驚くほど似合わないんです。立派な太ももにぱーんと張った腰骨をかっこよく見せるデニムの、ないことと言ったら。不恰好な自分の下半身に、何度試着室でため息を漏らしたことでしょう。

しかしHigh and Seekのディレクター夏川さんの「とにかくびっくりするから穿いてみて」の一言に押されて、このヴェトモンのデニムをしぶしぶ試着してみたところ……思わず歓喜の声を上げてしまったというわけです。

いまやすっかり“時のジーンズ”となってしまったため説明不要かとは思いますが、これはもはや、ジーンズではありません。立体裁断のトラウザーです。前面は、2枚のパターンが中央で縫い合わされており、センタープレスのようなラインが走ります。そのラインが脚の形を整えながら長く、立体的にみせるんです。バックスタイルは、もっとすごい。

まず、中央下部から内腿にかけてがパネルに切り替えられていますが、そのパネルがぐっとヒップを持ち上げます。さらにそのパネル上に半分だけ見えるポケットの痕跡が、“擬似ヒップ”となって、お尻を視覚効果で小ぶりに見せるのです。前後で丈違いの裾の処理も、これまた足を長くみせるのに一役買っている。最後に、忘れてはならないのがとてもソフトな履き心地。ジーンズ特有の肌へのストレスがまったくありません。
と、ここまで熱弁しましたが「でもやっぱりこの金額は出せないな」というのがそのときの気持ちでした。正直なところ、デニムとしては常軌を逸したプライスなんです。そこで私は泣く泣くこのデニムを諦めて、これを買わずとも満足しうる、究極の1本を探す旅に出かけたのです。

丸二日間をかけて、都内のありとあらゆるセレクトショップ、古着ショップを巡りました。7×7、サイモンミラー、RE/DONE……といった話題のブランドはくまなく試着。15本以上は穿いたと思います。そして最終的に、2本をゲットしました。
ひとつはリーバイスが、自社でかつて出していたデニムを再解釈して発表している「リーバイス ヴィンテージ クロージング」の50527インチを。

ほんのわずかにテーパードがかかったストレートラインで、すっきりとした仕立て。ほどよくダメージが施されていたり、バックの片ポケットのみが剥がされていたりといったディテールも気にいりました。



もうひとつは、ヴィンテージのリーバイスの50131インチ。こちらは細身のタートルニットをインしてだぼっとメンズライクに着ると可愛いな、と。


今までデニムは似合わないと決めつけていたけれど、それは似合うデニムを真剣に追求していなかったからなんだ!と、新しいファッションの扉がまたひとつ開きました。
2週間ほど経ったころ、SPURの企画で夏川さんにインタビューする機会が。「ヴェトモンは買わないぞ!」と固く胸に誓ってHigh and Seekに向かいましたが……。また夏川さんの、熱量のあるおしゃれトークにすっかり心を持っていかれてしまい、気づいたらカードを取り出していました。服って、ときに恐ろしいものです。
それ以来、この秋冬はほぼ毎日この3本のジーンズで過ごしました。デニムって最高です。あんなに怖かった試着室も、もう怖くない。わたしの「究極のジーンズを探す旅」は、まだまだ終わりそうにありません。

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。

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