グッとくるタイトル

いいタイトルの本は、それだけで中身よりも楽しめることがあります。ここ数年、個人的ベストを独走中なのが『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(岩波現代文庫)。ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンの回顧録です。

まずひっかかるのが、ひと昔前の吹き替え海外ドラマのような、「ご冗談でしょう」とオーバーな言い回し。敬語を使うべき相手なのに、思わずつっこまずにはいられなかった何かがあったに違いありません。発言の主は、偉い政治家? 若い学生? 上品な老婦人? いろいろな声が脳内で再生され、そのたびに違うストーリーがむくむくと立ち上がります。では、そんなに人々を驚かせたのは一体誰なんだと先へ急ぐと、「ファインマンさん」・・・って誰? 私のような根っからの文系人間は、鳩が豆鉄砲を食ったよう。でも、考えてみれば、オバマさんでは有名すぎるし、スミスさんでは何だかあっさりしている。なによりファインマンさんだと音の響きがいい。名前まで含めて、声に出したくなるユーモラスなタイトルなのです。

それで中身はというと、タイトルに負けない常識破りなエピソード満載なのですが、あえて書かずにおきましょう。好きなタイトルの本に出会ってワクワクしている時って本当に楽しいですよね。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は、本棚に置いてあるだけで何度も妄想が楽しめる、ベスト・オブ・積読本でもあります。

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エディターIWAHANA

日々、モード修行中。メンズとレディースを行ったり来たりしています。書籍担当。どうぞよろしくお願いします。

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