巨匠が教えてくれること

子どもの時にできなかったことを実現できた時、大人になったなとしみじみと思います(もちろん、年齢的には十分に大人なのですが……)。先日、また一歩大人に近づいたな、と思う出来事があったので、しばしお付き合いください。

学生時代にピアノを習っていたこともあり、ピアニストのマウリツィオ・ポリーニのCDをよく聞いていました。ショパンやリストなど、どれだけ練習してもなかなか弾くことができない名曲の数々を正確無比な演奏で聴かせるポリーニは、あこがれという言葉では到底おさまりきらない、まさに雲の上の存在。今までも何度か来日しているのですが、そんな巨匠だけにチケットの金額も決して安くなく、学生時代には、コンサートに行くという発想さえありませんでした。

しかし、先日、そんなポリーニのコンサートに行く機会を得たんです。初めて聴いた生の演奏は、やはり素晴らしいものでした。どんな難曲も気負うことなく、するりと弾く。たとえるなら、フルマラソンを2時間で走りきったのに、息が一切あがってないような演奏です。ポリーニの弾くピアノは、よく「彫刻作品のよう」と言われるのですが、生で聴くことでようやくその意味が分かったような気がします。

70歳を超えて、なお一線で活躍する巨匠に、何事も生で体感する大切さを教えられた夜でした。

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エディターMORITA

物心がついた時からパンツ派。今、一番興味があるのは、どうやったら居心地のよい部屋で暮らせるのか。美容、アート担当です。

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