2016.06.29

憧れの帽子をかぶる

 ファッションに携わる仕事をしていても、ここ日本だと「帽子で装う」機会ってなかなかないものです。日常的に帽子を被る人を思い浮かべても……チュニックとデニムに、日よけとおしゃれを兼ねたストローハットを被ったママ友か、ストリートなビーニー姿の若者くらいでしょうか。うちの編集部に、派手な被り物が大好きな編集者がひとりいますけどね。

 さて6月中旬、私は編集部で軽い帽子狂騒曲を巻き起こしていました(笑)。ロンジンさんのお招きにより、フランスはシャンティイ競馬場で、伝統あるホースレース”ロンジン ディアヌ賞”を観る機会をいただいたのです。競馬といっても、日本のそれとは違い、ヨーロッパではハットにドレスの淑女とスーツの男性が集う社交場です。当然、当日のドレスコードはハットやヘッドピースがマストでした。さて、どんなオボウシを持参したらいいのやら。まずは例の被り物編集者Oに救援を求めたところ、”そういうエレガントな帽子は持っていませんね~”と。そこでヴィンテージショップや老舗帽子店などもめぐりましたが、なかなかピンと来るものが見つからず。そこでスタイリストに「CA4LA表参道店の2階に行ってみたら?」とアドバイスを受け、行ってきました。

 いや、灯台もと暗しでした。表参道店の2階はミュージアムのように美しいヘッドピースが揃っています。フィリップ トレーシー、ピアーズ アドキンソン、スティーブン ジョーンズなどなど。ですが、自分が被るとなると……? というわけでショップスタッフの方に当日着る予定のワンピースを見せながら相談してみたところ、薦めてくださったのは、スティーブン ジョーンズの帽子でした。

スティーブン ジョーンズ! イギリスの有名な帽子デザイナーですが、そういえば、2009年に幸運にもロンドンに居合わせた私は、V&A美術館で彼の監修による帽子展「Hats:An Anthology by Stephen Jones」を観たのでした。歴史などを踏まえてさまざまな帽子が展示され、スティーブン ジョーンズのクリエーションの源が見えるアトリエの再現などもあってワクワクしたものです。

そういえば、彼が編集した雑誌「a magazine curated by stephen jones」というのも持ってました。帽子のことだけでなく、ニック・ナイトによる崩れ落ちるデカダンな薔薇のストーリーや、セリア・バートウェルと一緒にフィンガーペインティングするプロジェクトなど、ユニークな内容となっています。

ランウェイで様々なブランドとコラボレーションしたり、彼の帽子を被ったアンナ・ピアッジがパパラッチされた写真などで見るに、スティーブン ジョーンズの帽子は美しくクリエイティブで、ときに奇想天外なデザイン……だよね、それをワタシが!?

目の前に差し出された帽子は、ストロー素材のベースに、フラワーやリボン、パールなどが飾られていて、クチュール感たっぷりです。シルバーの糸が織り交ぜられたチュールが上品に煌めいています。ショップスタッフの方が見守る中とにかく試着し、「どうせ浮いてるだろうな~」と思いながら鏡を見てみると、意外にすんなりはまっていました。さらにもうひとつの、デザイン性がより強いもの(丸いベースの上に、天を衝くかのように、細長い布が三本立っている帽子)も被ってみたのですが、これも浮きません。いえ、自画自賛しているわけではなく、クリエイティビティ最優先なようでいて、被る主をよく見せるよう計算されているんだ、ということがわかったのです。二つとも、顔のラインをシャープにスッとした印象に見せるデザインなのです。

結局、持ち運ぶことを考えて写真のタイプのものを選びました。ホースレース当日、ド派手な装いの人々に気後れせず大いに楽しめたのはスティーブン ジョーンズのヘッドピースのおかげです。調子に乗って、しまいには「日本でも帽子で装う機会がもっとあればいいのにね~」なんて軽口をたたいたくらい。

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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