学生時代に、初めて一人旅をした南仏のセフォラで頑張って購入したのがロードゥ イッセイでした。水を香りに、というコンセプトを雑誌で目にした瞬間、これはぜったいに買わねばならぬと天命に貫かれたように思いましたよね。しかし香水一本購入するのはたいへんな贅沢なわけです、学生なので。フランスなら少しは安かろうとトラベラーズチェックを握り締めてセフォラに向かったあの日、レジのお姉さんと別のお客さんとの「トラベラーズチェックって何」「あーこれ、面倒くさいのよね」といううんざりしたやり取りに「すんません…」となぜかしょんぼりうなだれた自分のことを、今でもはっきり覚えています。
20代の前半はロードゥ イッセイと共に過ごしました。あの透明感は当時の革命だったんです。香水がこんなに爽やかでいいのか。ムンムンしてなくていいのか。まさに90年代の雰囲気に即したフレグランスでした。だからこの夏、ロードゥ イッセイの第二章であるロードゥ イッセイ ピュアを手に入れたとき、20年前のあれやこれやが一瞬にしてフラッシュバックして、万感の想いがこみ上げたのは言うまでもありません。
アンバーグリスが入っているためか、骨太さが増しています。そして、白い花の濃度も強めになっています。ロードゥ イッセイが、白いシャツドレスを着てそこに座っているティルダ・スウィントンなら、ピュアは同じ装いのままティルダが立ち上がってこちらに歩いて来ている。それくらいの差なのですが、透明感はそのままに、こちらのほうが力強く感じます。20年もの時を経て、いろんな意味で図太くなった自分だから感じる微差なのか? そのあたりは不明ですが、オリジナルのロードゥ イッセイを知っている人もそうでない人も、ぜひ肌で感じてみてほしい2016年の「水の香り」です。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。