2016.10.09

一本の鉛筆に秘められたもの

 私が通っていた小学校では、鉛筆以外の筆記用具は禁止されていました。だから中学に上がってはじめて授業でシャーペンを使った時は、ちょっと大人の仲間入りしたような気になって、ウキッ♪てなったのをうっすら覚えています。そんなホッコリした思い出もどこかへ置き去りにしたまま、気がつけばパソコンの前でカタカタやるかスマホ画面を必死に連打する毎日で、ペンをとる機会が圧倒的に少なくなってしまった今日このごろ。鉛筆なんて持っているかどうかさえも怪しい。だからこそ、このタイミングでこの写真展が実施されるのは実に興味深いと思いました。

 青山にある、ポールスミス スペースギャラリーで現在開催中の「THE SECRET LIFE OF THE PENCIL」。インダストリアルデザイナーのアレックス・ハモンドとフォトグラファーのマイク・ティニーによるプロジェクトで、ポール・スミス氏をはじめとする国内外の名クリエイターたちが使っている鉛筆を一本ずつ細部まで写真に収めたエキシビションです。鉛筆削りを使って端正にツンと芯先を尖らせたものから、カッターで粗削りされたものまで、被写体が見せる表情は十人十色。まるで持ち主の本質が鉛筆のディテールにそのまま映し出されているようです。その人の内面というか、まさにタイトルにもあるように“秘密”の部分をうっかり覗いてしまったような、ちょっとイケナイ気分にもなりました。ちなみに今回のキービジュアルに使われているのは、坂本龍一さんが使っていた鉛筆です。

 個人的にグっと心に刺さったのは、イギリスを代表するフォトグラファー、デイビッド・ベイリーが実際に使っていた一本でした。カッターで力を込めて削られた、潔いほどにいびつで真っ赤な芯。ファッションを“世界でもっとも退屈なもの”と皮肉った写真家のほとばしる情熱が、この一本に如実に表現されているような気がして、なんだかものすごく惹き付けられました。展示されている写真は、一枚¥64,800で販売もされています。

 帰り途、さて自分が使っている鉛筆はどんな風だったかしら、と思いを巡らしてみるものの、そもそも鉛筆なんて長らく使ってないから知る由もない。これが一番残念でした。便利なものに慣れてしまうと、なかなか元には戻れませんが、たまにはアナログに生きることも必要ですね。

「THE SECRET LIFE OF THE PENCIL」
会場:Paul Smith SPACE GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前5-46-14 3F
会期:10月6日~11月13日
TEL: 03-5766-1788
時間:月~金 12:00~20:00/土日祝 11:00~20:00/水曜不定休
http://secretpencils.co.uk/

“エディターHAYASHI”

エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。