2014年の11月、出張先の台北で「金馬奨」授賞式に出席する機会に恵まれました。台湾のアカデミーともいえる華やかな会場で、いちばん胸に熱いものがこみ上げたのが、最優秀新人演技賞が発表された瞬間でした。
実際に盲学校の学生だったというチャン・レイという名前の役者が壇上に立ち、トロフィーを手にした姿に、早くこの作品が観たい!誰か日本にこの映画を持ってきて!と心中、呟いたのを思い出します。2年もの時を経てやっと先週、鑑賞することができました。
ロウ・イエ監督の映画「ブラインド・マッサージ」が綴るのは視覚障がい者のマッサージセンターの日常です。人生の光と影を見据えるストーリーは、考えていた何十倍も歯ごたえのあるものでした。暗闇だけではない「見えないもの」を見つめながら、各々の凝り固まった価値観をえぐり出す。115分が過ぎたあとの余韻は、一週間経った今も身体から離れません。
数々の美しい台詞が散りばめられています。センターで働くマッサージ師たちはぶつかることも多いのですが、ひとりの女性があるとき仲間にこんなことを聞きます。「前から来てぶつかったのが人だったときと、車だったとき、その違いはなんだと思う?」と。彼女の答えは、とても素敵なものでした。美しいといえば、最後の場面で流れる歌の切なさも無類。
原作の『推拿』は白水社から翻訳本が発刊されています。映画は都内では渋谷アップリンクと新宿K’scinemaにて公開中。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。