地中海を燦々と照らす太陽のようなオレンジに、さんご色のビジュー。最近足を入れてときめいた靴は、マノロ ブラニクでした。
1月号で「特別な日のハイヒール」を担当した編集Kが興奮気味に話しかけてきました、「(どれも素敵なんですが)私はマノロがほしくなりました!」と。ふだんヒールを履かない彼女がすべてためし履きした結果、「ピンヒールを忘れるくらい履きやすい」と感激したのがここの靴。というわけで、二人して勇んで”マノロ詣で”へ。冒頭の靴は残念ながら私に合うサイズがなく断念しましたが、編集Kはよい出会いがあり、艶めくベルベットをゲット(ああ、ジェラス!)
写真上は、映画のために特別に作られた一足。少年時代に、スペイン・カナリア諸島の庭園でつかまえたトカゲのためにあつらえた、チョコレートの包み紙の靴が彼の初めての”作品”。
その興奮のまま観に行きました、映画『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』(公開中)。「高級ワインにもケチをつけ」「髪をとかすのに忙しい」ビアンカ・ジャガーに靴をつくり、ダイアナ・ヴリーランドに助言され、オジー・クラークのランウェイのためにシューズをデザイン。往年の”モード・セレブリティ”との尽きぬ逸話を通じ、ファッションの華やかで豊潤な世界が広がります。白い手袋で流麗なスケッチをし、デヴィッド・ベイリーをして「トム・フォードと並ぶエレガントさ」と言わしめた本人のスタイルも見どころです。
そして真に「女性のための靴である」ということ。背の高さを気にしてフラットシューズしか履かなかったダイアナ妃が、”復讐のドレス”をまとったときに履いていたのがマノロ ブラニクのハイヒールでした。映画『マリー・アントワネット』で撮影現場にマノロの靴が届くと女性キャストのテンションが上がった、なんてエピソードも。
映画館を出て師走の街を見まわし、思いを巡らしました。日本人のおしゃれ基準は高くなった分、平均化され「極端にダサイ人も、極端におしゃれな人もいなくなった」という話をよく聞きます。力の抜けたリアルなモードが洒落ているとされる昨今。ですがやっぱり、装いを通じて手に届かない世界に憧れ背伸びする、というのも大事だなと。
ヨーロッパの歴史や文化、そしてファッションの夢がギュッと詰まった靴。いまは師走の街をスニーカーでドタドタと駆け回っていますが、来年こそは「走れるピンヒール」で……と誓った年の瀬でした。
ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。