人の性格を陰と陽で分けたら、確実に自分は陽だと思うので、陰な人に憧れます。静かで暗い人というのは得てして魅力的なものです。話していると、どこか影がちらつきその背後にある底なしの闇をのぞきたくなるんですよね。
トムフォードの香水、ノワール デ ノワールは、まさにそういう香りだと思います。名前からして「黒の中の黒」なわけですが、香料もパチョリに黒トリュフ、ウードにモスと、苔むす湿った森を思わせる調合。ただつけると落ち込むわけでは決してなくて、なぜだかやさしく穏やかな気持ちになるんです。それはたぶん、一緒に配合されているフローラルノートのおかげ。暗い気分の時に、「頑張って!元気出して!」と励まされるより、そばでただ話を聞いてくれるほうがほっとしますよね。これはまさにそういう類の香りなんです。包容力と温かさを兼ね備えた暗闇、とでもいいましょうか。そんな人がいたらちょっと危なそうですね。今想像して震えました。
明るすぎる自分としては、こういったダークフレグランスをつけることで人としてのバランスが取れると思っています。少しは静けさが加わるかしら、と。
この香水、気持ちが沈んだときのレスキュー・パフュームとしても活躍します。闇の成分がじわーっと心に押し寄せてきたら、焦らずにこちらをフッとひと吹き。薄暗い部屋でキャンドルに火を灯すように、心地よい暗闇に包まれて徐々に心が落ち着いていくのです。
ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。