旅行に行くと、なぜか香水を買いたくなります。プルースト効果という言葉もあるように、香りと記憶は密接に関わっているので、無意識のうちに少しでも楽しい思い出を覚えておこうとしているのかもしれません。その香りをかぐ度に、旅で過ごした鮮やかな時間を思い出すことができますから。
先週パリに行ったのですが、そこで出合ったのが「イストワール ドゥ パルファン(Histoires de Parfums)」。マレ地区をぐるぐると歩いている時に偶然ショップを見つけました。
調香師のジェラルド・ギスランが2000年にスタートしたブランドで、もともとはアーティストの生年をテーマにした香りを作っていました。例えば「1899」。作家であり、冒険家でもあったヘミングウェイにインスパイアされた、ベルガモットとアンバーのきらめきと重厚感に満ちた香りです。「1828」は、SFの父とも言われる作家のジュール・ヴェルヌが着想源。こちらはクレープフルーツとペッパーの疾走感のある爽やかさが特徴。
このクラシックなシリーズに対し、モダンな香りが揃うのが、2016年に生まれた「This is not a blue bottle」シリーズ。画家ルネ・マグリットの、パイプの下に「これはパイプではない」という文字が描かれた《イメージの裏切り》という作品に着想を得ています。マットなブルーのボトルの5種の香りがあるのですが、なかでも心を射抜かれたのがスプラッシュペイントが施された「1/.2」。イランイランやサンダルウッドを使った甘い香りなのですが、今までかいだことのない濃厚で苦味のある甘さに衝撃を受けました。まさに頭のなかで、水が弾ける感覚です。
今まではどちらかというとさっぱりした香りが好みだったのですが、旅行中という非日常だからこそ、いつもとは違うものに魅力を感じたのかもしれません。パリでの思い出とともに、甘くて苦いこの香りを身につけたいと思います。
物心がついた時からパンツ派。今、一番興味があるのは、どうやったら居心地のよい部屋で暮らせるのか。美容、アート担当です。