感情が揺さぶられる、最高のお買い物

きっかけはこちらのテーマの写真でした。ヴァレンティノのスカーフ。何これ、花柄のスカーフから羽が生えてる、可愛すぎる。
ただ実は、ごく個人的な事情から、半年間新しい服を買うのを控えるチャレンジをしてまして。ほんとに4ヶ月くらい買ってなかったんですよ。控えることによって、ファッションに改めて向き合っていたところでした。

そんなわけなんで、買わないにしても、とりあえず現物を見なければならない、見届ける義務がある、と勇んでお店へ向かいました。みるだけ、みるだけね。「羽のついたスカーフありますか?」と聞くと、ありますよーと言ってお姉さんが出してくださったのが、また違うタイプでして。「あれ?これなんですけど……」ってシュプールを見せたんですね。

そしたら店員さん、「少々お待ちください」と下へ降りて行きました。そして。「こちらでしょうか?」と、恭しくスカーフをトレーに乗せて、持ってきてくださったんです。


「これちょうど入ったみたいです!ごめんなさい、気づかなくて」と。その時点でただならぬ運命的なご縁を感じてしまいました。その時着ていたベージュのセーターの首元にふわっとかけてみたんです、スカーフを。そうしたら、顔が本当にバラ色になって、昔の漫画でよくあるじゃないですか、主人公のまわりにお花が咲く描写。あんな感じで花が開いていくのが見えたんです。「でもなぁ、わたし買い物控えてるし」と言いながらも頭の周りにかざしてみたり、コートの上から巻いてみたり、いろいろ試してみているうちに、「ああもう、いただきます」って言ってました。半ば夢心地で。なんだろう、自分の半年の決意なんて、デザイナーのピエールパオロ・ピッチョーリ氏が生み出す圧倒的な美の前にはかくもたやすく散り去るんですね。惨敗。
その日は地下鉄で帰ったんですけど、この紙袋の中にあの麗しいスカーフが潜んでいると思えば、地下鉄ですら楽園になるんですよ。今日もこれを巻いて通勤しましたが、仄暗い電車の中も、これがあれば花園。
以前にヴァレンティノのコレクションを見て、ピエールパオロ・ピッチョーリさんにインタビューしたときに彼が語っていた言葉を思い出しました。「何もどこかリゾートに行かなくても良いんだ。美しい服があれば、そしてゆとりのあるドレスをまとえば、たちまち女性は楽園に行けるんだ」と。なんてロマンティックなんだろうと、それを聞いて、いたく感銘を受けたんです。

こちらの『A magazine』、ピエールパオロ・ピッチョーリ氏がキュレーションしてるんですが、めちゃくちゃ素敵なのでぜひ。普通の道傍でいろんな人種のいろんな年齢の女性がヴァレンティノのドレスをまとっています。ああ、こういうことかって思います。美しいファッションは、なんてことない日常の風景を楽園に変えるんだ。これがファッションの魅せる夢の力なんだ。

わたしのチャレンジを応援していた友達に、「ごめん、失敗しちゃった」と、このスカーフの写真を送ったんです。そうしたら彼女が言ったのは、「いいんじゃない?だってそのスカーフ、きっと死ぬまで使うでしょ」
人生100年時代、本気であと70年大事にしようと思えるものに出会いました。

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。

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