正直に申し上げます。お恥ずかしながら、トルーマン・カポーティの著作は『ティファニーで朝食を』しか読んだことがありません。『冷血』でさえ未読。
ですから、ドキュメンタリー映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』はちょっと面白そうだから観てみようかな、くらいだったのです。そもそも見た目から入ったんです。このポスター見てください。スーツの上からチャンキーニットをふわりと。大きなボストンバッグというのもおしゃれですよね!
『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』(Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中)
© 2019, Hatch House Media Ltd.
ポスターの文言から、著名なセレブがじゃんじゃん出てきて、「やっぱり才能がある人はどこか常軌を逸している」っていう話なのかな、と。ところが想像はいい意味で裏切られたのです。
心をちぎられるように切ない。彼の心の中には、母がいたんです。上流階級に強すぎる執着を抱く、美しい野心家の女性、リリー・メイ・フォーク。幼い頃にカポーティを置いてけぼりにし、ニューヨークへ。夢が叶わず絶望のあまり自殺してしまいます。『ティファニーで朝食を』の主人公、ホリー・ゴライトリーのモデルはリリーだと言われているのも腑に落ちる。華やかで自由奔放に見えて、なんとも言えないやるせなさを覚える女性像に重なります。そんな彼女の影響か、ハイソサエティへの強烈な憧れと復讐心という矛盾を抱えるカポーティ。バラク・オバマ元アメリカ大統領のソーシャルセクレタリーという異色の経歴をもつイーブス・バーノー監督が、人間カポーティに寄り添う姿勢に深く共感します。
1966年、「冷血」で売れっ子作家となったカポーティは、500人の「セレブ」を招いて「黒と白の舞踏会」を開催。
ソーシャル・スワンの女王、バーバラ・ペイリー。CBSテレビの創設者と結婚しステップアップ。プレイボーイで鳴らす夫の“トロフィー・ワイフ“として生きる人生には、私のような一般人にはわからない思いがあったでしょう…。カポーティは彼女を一番愛したけれど、関係は悲劇的な結末を迎えます。
ソーシャル・スワンの一人、スリム・キース。
夢のように煌びやかな世界をのぞきたい人にもおすすめです。伝説の「黒と白の舞踏会」。カポーティが愛した社交界の“ソーシャル・スワン“たち。大金持ちで美しく、知的でスタイリッシュだけど“虚無“の海を必死に泳いている。そんな彼女たちがカポーティの著作に激怒したというわけです。彼が描いた“上流社会の実態“があまりにも核心をついていたからでしょう。未完の著作『叶えられた祈り』、今すぐにでも読みたくなってきました。
ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。