2023.10.14

心を守る服って、どんな服? 【ピリングス】のパンツ

服を見て泣けた瞬間が人生で何度かあるのですが、そのひとつが、ピリングスのショーを見たときでした。2023年秋冬の東京コレクションです。

服の力に圧倒されたり、美しさに自然と涙がこぼれてしまうのとは少し異なり、理由は“服があまりにも優しかったから”。ファッションにその人の個性が浮き出るように、服にはデザイナーの人柄がにじみ出てくるのではないかと思っています。

“理想と現実”で悩む、すべての人のための服

ピリングス 2022年秋冬コレクションの様子
ショーの様子。

遡ること1年前の2022年秋冬コレクション。コンセプトは「理想と現実」でした。規律を重んじるグランドピアノが宙に浮いた“理想と現実”の狭間のランウェイを、モデルが歩く仕様。まとっていたのは、ずるずると長いスカートや、オーバーサイズのニットでした。

学生と話をする機会がよくあるというデザイナーの村上亮太さん。“選択肢が多いはずなのに、生きにくそうだった”という彼らが、インスピレーション源になったそう。

「アイルランド発祥のアランセーターは、漁に行く夫が無事に帰還することを願って、妻が想いを込めて編みます。道に迷っている人が、迷っても帰ってこられるような、そんな服を作りたかった」。そして、「“もうちょっと上手に生きられれば良いのに”と思うことが、僕もよくある」としたうえで、「理想に完璧に近づくのではなく、その狭間で生きていることの美しさを伝えたかった」と話します。

日々もがきながら生きている人、不器用な人。さまざまな人の個性を愛おし気に見つめ、「そのままで大丈夫だよ」と肯定してくれるような優しさに、心の芯からじんわりと温まる(そして泣けてくる……)シーズンでした。

世にも優しい、新時代の“鎧”

ピリングス 2023年秋冬コレクションの様子
凹凸のあるニットトップスは、花のようにも見えます。村上さんがよく用いる蛾のモチーフをあしらったニットもユニーク(蛾に込められた想いもとっても素敵なので、是非調べてみてください!)。

すっかりピリングスの虜になっていた私は、2023年秋冬コレクションもとても楽しみにしていました。暗かった会場がショーの始まりとともに明るくなり、歩いてきたのは、コンパクトなニットをまとい、身体を抱えるようにウォーキングするモデル。一見怯えているようにも見えるのですが、ぎゅっと身体を掴んで闊歩する姿は、力強い。不安な時代でも、前を向いて生きていこうとする現代人をたたえる、村上さんの人間賛歌であるようにも感じ、実に胸アツ。感極まり、会場で涙をこらえるのに必死でした。

キーアイテムとなったニットは、ポケットを胸のあたりに不規則に設けています。「ポケットは、不安な時に手を入れてしまったり、入れると落ち着く効果がある。そこがとても好き」とのこと。ぼこぼこと出っ張りがあったり、穴が開いていたり。ともすると不格好にも思えるディテールには、いつもの村上節を感じます。“人と違っても、少しへんてこでも、それが美しい”。

“鎧”として語られることがよくあるファッションですが、こんなにも人の心に添い遂げてくれる優しい鎧はあったものかと、また心を掴まれたのでした。

手に入れたのは、毛玉がつくまで愛したいパンツ

ピリングスのパンツ
ピリングス パンツ¥74,800

と、前置きがかなり長くなってしまいましたが(それくらい大大大好きなブランドです!)、今回紹介させていただくのが、2023秋冬のパンツです。ショーを見た時から、「今シーズンは絶対に何か手に入れる」と決めていました。ピリングスがニットブランドということもあり、象徴的なトップスは大変捨てがたかったのですが、悩みあぐねた結果、購入したのは“超”オーバーサイズのパンツ。“超”と書きましたが、想像を上回るほどでかい! でも、実は使っている生地はもっともっと大きい。スーパーロングのフェルト素材をわざと縮絨させたデザインです。丈もかなりあるので、最初試着したときは「どうすればいいのだ」と持て余していたのですが、ブーツにインして履くのがポイントです。もったりとしたシルエットがとっても可愛い。

デザイナーの村上さんが普段履いている毛玉だらけのスウェットパンツに着想を得たそうなのですが、ブランド名の「pillings」は「毛玉」という意味なので、ある意味アイコニックかもしれません。

クローゼットで見るだけでも、ショーの感動を思い出して頑張る活力になるお気に入りの一品。ちょっと辛い日は、履くと心を守ってくれるような気持ちになります。これから、もっともっと毛玉ができてしまうくらい、愛していこうと思うスマイルグッドな購入品です。

心を守る服って、どんな服? 【ピリングスの画像_4
ピリングスのパンツの着用感。
エディターSASAYAMAプロフィール画像
エディターSASAYAMA

周囲の人の着こなしが気になって仕方ない私服ウォッチャー。
街でも目を光らせています。ミニマルで、少しひねりのある服が好きです。

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